よくあるご質問

遺言・相続問題

相続の承認や放棄は、民法915条によると自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならないと定められています。

では次のような例の場合はどうなるでしょうか。

70歳の男性が昨年12月に亡くなり、相続人は、子A一人ですが、亡くなった男性は、40年前にAの母である妻と離婚しました。Aと母は、母の実家のある北海道に行き、なくなった男性は、生活保護を受けていて、東京で一人暮らしでした。

離婚後その男性は元妻とはまったく音信がなく、Aは昨年12月に葬儀が終わった後、男性の妹から死亡したことを聞かされました。

ところが、その後、今年の夏になって、信販会社からAに請求書がきて、男性が数百万円の借金をしていたことが分かりました。Aは、男性が死亡したことは昨年12月に聞いて知っていますから、自己のために相続が開始したことをその時点で知っています。

この場合、もう相続の放棄は許されないのでしょうか。

こういう場合、裁判所はどのように判断しているのでしょうか。

最高裁の昭和59年4月27日の判決は、「相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知ったときから3か月以内に限定承認または相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信じるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は相続人が相続財産の全部もしくは一部の存在を認識したときまたは通常これを認識しうべき時から起算するのが相当である。」と判示しています。

言い回しが難しいですが、要するに、自分が相続人になったことを知ったとしても、被相続人に何も財産がないと信じていて、しかも、そう信じるのがもっともだと思われるような事情があれば、死亡の事実を知ってから3か月以上経っていても、相続の放棄が許される場合がある、ということです。

Aは、40年前に父と離別し、その後全く連絡がないまま父が死亡後に初めてその旨の連絡があり、しかも、生活保護ですから、財産は何もない状態だったわけです。借金だけが残っていたとしても、それを知りうることはできなかったわけですから、信販会社からの請求によって初めてそれを知ったことで、その後の相続放棄は許されると考えられます。