決議文・意見書・会長声明
再審法改正を踏まえ、引き続き、えん罪被害者救済のための実効性ある取り組みを求める会長声明
2026.10.27
本年7月17日、刑事再審手続に関する「刑事訴訟法の一部を改正する法律」が参議院本会議で可決され、成立した。
刑事再審手続に関する刑事訴訟法の改正は、1948(昭和23)年の現行刑事訴訟法制定以来、初めてとなるものであり、重要な意義を有する。
本改正は、長年にわたり再審制度の改革を求めてきた、えん罪被害者、ご家族、支援団体、市民の方々、国会議員、地方自治体首長、地方議会をはじめ多くの方々の尽力によるものであり、感謝と敬意を表する。
本改正により、①これまで詳細な規定がなかった刑事再審手続の規定が整備されたこと、②裁判所が必要かつ相当と判断した場合に検察官に対して証拠の提出を命じることが義務付けられたこと、③再審開始決定に対する検察官の不服申立てが原則として禁止されたことなど、肯定的に評価できる面もある。
しかしながら、以下に述べるとおり、本改正は、未だ多くの問題点を残しており、引き続き、えん罪被害者救済のための実効性ある取り組みが求められる。
(1)証拠提出命令制度が実効的に機能しないおそれがあること
第1に、本改正では、証拠提出命令の対象は、裁判所が必要かつ相当と認めるものに限定されているところ、再審請求人・弁護人による分析・検討と主張を経なければ、裁判所が証拠の必要性等を的確に判断できないおそれがある。しかし、本改正では、再審請求人・弁護人に証拠が直接開示される規定や裁判所の職権により再審請求理由との「関連性」とは無関係に幅広く開示される規定がないため、再審請求人・弁護人が分析・検討を行うことができず、この点は不十分といわざるを得ない。
また、証拠一覧表の作成・提出を検察官に命じる制度が設けられておらず、証拠一覧表を再審請求人・弁護人へ交付する規定もない。
過去のえん罪事件では、検察官が「存在しない」と回答した証拠が存在していたことが後日判明した事例が複数あり、実効性あるえん罪被害者救済のためには、検察官に対し、再審請求人・弁護人に証拠を幅広く開示させるとともに、証拠一覧表の作成・提出を命じ、再審請求人・弁護人に交付させることが重要である。
(2)目的外使用の禁止がえん罪被害者の救済活動に萎縮効果を生じさせるおそれがあること
第2に、本改正では、検察官から裁判所に提出された証拠について、再審請求人・弁護人に対し、目的外使用の禁止を定め、罰則も設けられている。
過去のえん罪事件では、支援者・報道機関・ジャーナリスト等が証拠の問題点を指摘したことで再審無罪につながった例が複数あるが、目的外使用の禁止規定により、こうした活動に萎縮効果を生じさせ、ひいては、えん罪被害者の救済を阻害するおそれがある。
(3)検察官の不服申立てを全面的に禁止していないこと
第3に、本改正では、再審開始決定に対する検察官の不服申立てが原則として禁止されたものの、「当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合」には、なお例外的に申立てを許容している。
過去のえん罪事件では、検察官は、ほぼ全ての事件で不服申立てを行っており、引き続き、検察官の不服申立てにより再審が長期化するおそれがある。
当会は、2002(平成14)年に当会所在地で発生した「氷見事件」をはじめとするえん罪被害を踏まえ、2023(令和5)年12月11日に「えん罪被害者救済のため、再審法の速やかな改正を求める決議」を採択するとともに、2024(令和6)年9月26日に「『袴田事件』の再審無罪判決を受けて、直ちに判決を確定させること及び改めて再審法の速やかな改正を求める会長声明」を、同年10月23日に「『福井女子中学生殺人事件』再審開始決定に関する会長声明」を、2025(令和7)年7月18日に「『福井女子中学生殺人事件』再審無罪判決に関する会長声明」をそれぞれ公表してきたところである。
さらに、本年2月26日に「法制審議会による『刑事再審手続に関する要綱(骨子)』に反対するとともに、えん罪被害者救済のための実効性ある再審法改正の速やかな実現を求める会長声明」を公表して、再審法改正案の問題点を指摘するとともに、えん罪被害者救済のための実効性ある再審法改正を求めてきた。
しかしながら、以上に述べたとおり、今般成立した、「刑事訴訟法の一部を改正する法律」は、未だ多くの問題点を残していると言わざるを得ない。
よって、当会は、上記のような問題点を踏まえ、本改正法が適正に運用されるよう注視するとともに、引き続き、えん罪被害者救済のための実効性ある取り組みを求めていく所存である。
2026(令和8)年10月21日
富山県弁護士会 会長 鍋 谷 博 志