決議文・意見書・会長声明

法制審議会による「刑事再審手続に関する要綱(骨子)」に反対するとともに、えん罪被害者救済のための実効性ある再審法改正の速やかな実現を求める会長声明

2026.02.26

本年2月12日、法制審議会は、「刑事再審手続に関する要綱(骨子)」(以下「要綱(骨子)」という。)を採択し、法務大臣に答申した。

しかしながら、要綱(骨子)の内容は、えん罪被害者救済のための実効性あるものとはいえず、むしろ、今まで以上に救済を困難にしかねない内容を含んでいる。

その主な問題点は、以下のとおりである。

(1)証拠開示を受けられないまま再審請求が棄却されるおそれがあること

第1に、要綱(骨子)は、「再審の請求についての調査手続」を設け、裁判所が再審請求について調査した結果、「理由がないことが明らかである」と認めるときは、事実の取調べや証拠の提出命令を行うことができず、ただちに再審請求を棄却することを義務付けている。

過去の再審無罪事件を見ると、再審請求後に新たに開示された証拠が新証拠となって再審開始・再審無罪に至る場合が多い。しかるに、このような規定が設けられた場合、調査手続の段階では、裁判所は証拠の提出命令を行うことが禁止されるため、再審請求人が無罪につながる証拠の開示を受けられないまま、書面審査のみで再審請求が棄却されるおそれがある。

(2)証拠開示が制限されていること

第2に、要綱(骨子)は、証拠開示の対象を「その関連性の程度その他の当該再審の請求についての裁判をするために提出を受けることの必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認める」ものに限定している。

無罪につながる証拠が捜査機関の手元にあることが多いことは、過去の再審無罪事件からも明らかであるが、そのような証拠に辿りつくためには、再審請求人や弁護人がその主張立証を準備するにあたって必要な証拠が幅広く開示されなければならない。

しかるに、要綱(骨子)によれば、裁判所が再審請求の判断をするために必要かつ相当と認めて証拠の提出を命じない限り、弁護人は、捜査機関が保管する証拠を閲覧・謄写することができない。これでは、無罪につながる証拠の発見はおぼつかない。

しかも、要綱(骨子)は、開示証拠の目的外使用禁止についても定めている。このような規定が設けられた場合、例えば新証拠の獲得に向けた活動において開示証拠を支援者に交付することも、目的外使用にあたるのではないかとの懸念から、これを躊躇するおそれがあり、えん罪被害者の救済を困難にさせる。

(3)検察官の不服申立てを禁止していないこと

第3に、要綱(骨子)は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止していない。

過去の再審無罪事件を見ると、検察官は、ほぼ全ての事件で不服申立てを行っているが、いわゆる「福井女子中学生殺人事件」の第1次再審請求では、検察官は、自らの主張と矛盾する重要な証拠を隠したまま、再審開始決定に対して不服申立てを行い、その結果、再審開始決定が誤って取り消されている。このような「公益の代表者」としてあるまじき検察官の対応によって、えん罪被害者の速やかな救済が阻害されているのが実情である。にもかかわらず、要綱(骨子)は、これまでどおり、再審開始決定に対して検察官が不服申立てを行うことを無制限に認めている。

そもそも、要綱(骨子)は、法制審議会刑事法(再審関係)部会の審議を経て作成されているが、同部会の委員・幹事の人選も含め、その審議を主導していたのは、検察官が要職を占める法務省であり、かかる審議の進め方に対しては、えん罪被害者やその家族のみならず、多くの刑事法研究者や元裁判官、さらには全国各地の報道機関からも深刻な懸念が表明されていたところである。

当会は、2002年に当会所在地で発生した「氷見事件」をはじめとするえん罪被害を踏まえ、2023年12月11日に「えん罪被害者の速やかな救済のため、再審法の速やかな改正を求める決議」を採択するとともに、2024年9月26日に「『袴田事件』の再審無罪判決を受けて、直ちに判決を確定させること及び改めて再審法の速やかな改正を求める会長声明」を、同年10月23日に「『福井女子中学生殺人事件』再審開始決定に関する会長声明」を、2025年7月18日に「『福井女子中学生殺人事件』再審無罪判決に関する会長声明」をそれぞれ公表してきたところである。特に、2025年7月18日の会長声明においては、同年6月に議員立法として提出され継続審議となった再審法改正案の早期成立を求めてきた。

しかしながら、以上に述べたとおり、今般、法制審議会が答申した要綱(骨子)は、当会が求めてきた、えん罪被害者の救済のための実効性ある再審法改正とはかけ離れていると言わざるを得ない。

よって、当会は、上記のような問題点を含む要綱(骨子)に反対するとともに、えん罪被害者救済のための実効性ある再審法改正の速やかな実現を求める。

2026(令和8)年2月25日
富山県弁護士会 会長 片 岡 長 司