決議文・意見書・会長声明

最高裁判所判決を受けた厚生労働省の違法な対応策の撤回とすべての生活保護利用者への全面的な被害回復措置等を改めて求める会長声明

2026.01.22

  1.  最高裁判所第三小法廷は、2025(令和7)年6月27日、2013(平成25)年から2015(平成27)年にかけて行われた最大10%、平均6.5%の生活扶助基準引下げ(以下「本引下げ」という。)につき、基準引下げが生活保護法3条、8条2項に違反し違法であるとして、基準引下げに基づく保護費減額処分を取り消す判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
  2.  本判決を受けた対応策については、厚生労働省が社会保障審議会生活保護基準部会の下に設置した最高裁判決への対応に関する専門委員会(以下「専門委員会」という。)において審議・検討がなされた。専門委員会は、2025(令和7)年11月18日に報告書をとりまとめて公表し、これを受け、厚生労働省は、同月21日、「最高裁判決への対応に関する専門委員会報告書等を踏まえた対応の方向性」(以下「対応策」という。)を公表した。
  3.  その概要は、原告らを含むすべての生活保護利用世帯に対し、①本判決で違法とされなかった「ゆがみ調整(及び2分の1処理)」を再実施し、②本判決で違法とされた「デフレ調整(−4.78%)」に代え、下位10%の低所得世帯の消費実態との比較による新たな減額調整(−2.49%)を行ったうえで、③原告らについてのみ「特別給付」として②による減額相当分を追加給付するというものであった。
  4.  しかし、本判決を受けた原告らについては引下げ前基準との差額保護費の給付請求権が生じている。この給付請求権は、生存権(憲法25条1項)に由来する財産権(憲法29条1項)であるところ、この極めて重要な権利を遡及的に侵害する対応策は、遡及立法禁止の原則に反し違法である。
     また、上記②の新たな減額調整は、被告国側がデフレ調整を正当化する根拠として主張したものの本判決が採用しなかったものである。これを再減額の根拠として用いることは本判決の判断を蔑ろにするものであり、専門委員会においても法学系委員らが「前訴で主張し又は主張し得た理由に基づく再減額改定は紛争の一回的解決の要請等に反し許されない」旨一致して指摘してきたことからすれば、専門委員会で示された専門的知見にも反している。
     さらに、違法とされた基準引下げによる不利益はすべての生活保護利用者が等しく被っており、専門委員会の一部委員も指摘していたとおり一連の訴訟が代表訴訟的性格を有することやそもそも本判決は全ての生活保護利用者に適用される基準引下げ自体を違法と判断したことからすれば、上記③のように原告であったか否かによって補償内容に差異を設けることは、法の下の平等(憲法14条)や無差別平等原理(生活保護法2条)に反する。
     なにより、このような行政判断がそのまま実行されることは、司法の本質的役割を蔑ろにすることにほかならず、「法の支配」、「三権分立」を瓦解させることにつながりかねない。
  5.  当会は、これまでも本引下げの撤回等を求める声明等を発出し、中部弁護士会連合会も、2025(令和7)年10月17日、富山市において、中部弁護士会連合会第73回定期弁護士大会を開催し、「司法・弁護士の本質的役割を再確認し、人間の尊厳の基盤となる生存権を守り抜く宣言」を全会一致で採択したところである。
  6.  当会は、国及び厚生労働大臣に対し、違法な「対応策」を撤回し、すべての生活保護利用者に対する全面的な被害回復措置を直ちに実施することを改めて求めるとともに、違法な生活保護基準の引下げが再び行われることのないよう、本引下げがなされた経緯の検証及び日本弁護士連合会が2024(令和6)年10月4日人権擁護大会において制定を求める旨決議した「生活保障法」の制定を強く求める。

2026(令和8)年1月22日
富山県弁護士会 会長 片 岡 長 司