決議文・意見書・会長声明

総合法律支援法における被災者法律相談援助に関する実施期間の改正等を求める会長声明

2024.11.18

第1.声明の趣旨

  1.  国は、総合法律支援法(以下「法」という。)第30条第1項第4号を改正し、日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)による同号の法律相談の実施期間の上限を、現在の1年から少なくとも2年に伸長するとともに、実施期間が上限に達した場合でも、政府の決定により、2年を超えて延長することができるようにすべきである。
  2.  国は、令和6年能登半島地震について、東日本大震災における対応と同様に、発災当時被災地に住所、居所、営業所又は事業所を有していた者であれば資力を問わず法テラスにおける法律相談援助、代理援助及び書類作成援助等を受けられること、裁判所における手続のほかに裁判外紛争解決手続(ADR)や行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に関する不服申立ての手続(以下「行政不服申立手続」という。)などについても代理援助及び書類作成援助の対象とすること、事件の進行中は立替金の償還が猶予されること、などを含む法テラスの業務に関する特例法を制定すべきである。

第2.声明の理由

  1.  令和6年能登半島地震の現在の状況

    本年1月1日に発生した令和6年能登半島地震(以下「能登半島地震」という。)の発生から約10か月が経過した。能登半島地震は、地震の規模M7.6、最大震度7を記録し、奥能登地域を中心に各地で甚大な被害をもたらした。被害状況は、富山県内だけでも令和6年10月31時点で死者(災害関連死)2名、負傷者54名、半壊以上の住家被害1062件となっている。また、内閣府非常災害対策本部の発表によれば、本年10月29日時点での全国の被害状況は、死者・行方不明者が412名(うち、災害関連死が185名)、負傷者が1341名、半壊以上の住家被害が3万0317件となっており、2011年(平成23年)に発生した東日本大震災以降、最大の被害が発生している。

    被災地では、徐々に復旧が進みつつあるが、被災地へのアクセスの困難さや自治体、関係事業者の人材不足もあり、公費解体の遅れ等の問題も生じており、生活再建の入口にすら到達できていない被災者も多数存在する。

  2.  総合法律支援法改正の必要性について

    総合法律支援法第30条第1項第4号では、法テラスの業務として、「著しく異常かつ激甚な非常災害であって、その被災地において法律相談を円滑に実施することが特に必要と認められるものとして政令で指定するものが発生した日において、民事上の法律関係に著しい混乱を生ずるおそれがある地区として政令で定めるものに住所、居所、営業所又は事務所を有していた国民等を援助するため、同日から起算して一年を超えない範囲内において総合法律支援の実施体制その他の当該被災地の実情を勘案して政令で定める期間に限り、その生活の再建に当たり必要な法律相談を実施すること」を定めている。これは、政令で指定された一定の大規模災害により被災された方を対象に、災害発生から最長で1年間、資力を問わず、無料で弁護士等による法律相談を行うものである(以下「被災者法律相談援助」という。)。

    政府は、本年1月11日に令和6年政令第6号を制定し、能登半島地震を法第30条第1項第4号に規定する非常災害に指定をし、同地震によって災害救助法が適用された地域に、住所、居所、営業所又は事業所(以下「住所等」という。)を有していた国民等について、資力を問わず、本年12月31日まで被災者法律相談援助を実施することを定めた。

    その結果、能登半島地震の被災地においては、法テラスの事務所や市役所での法律相談、電話による法律相談などを円滑に行うことが可能となっており、石川県内では事務所等へのアクセスが困難な地域に居住する被災者のために移動相談車両(法テラス号)を派遣するなどの対応もとられており、被災者法律相談援助制度は能登半島地震の被災者の法律相談ニーズに応える上で、重要な役割を果たしている。

    富山県弁護士会では、これまでに無料電話相談、弁護士会館等での無料法律相談、富山市役所、高岡市伏木コミュニティセンター、氷見市役所など被災地での無料法律相談などを実施しており、11月12日時点での相談件数は合計486件となっており、その中には発災時に石川県内に居住していた被災者からの相談もある。そして、今後も、罹災証明や公費解体についての相談、災害関連死の申請に関する相談、各種支援金の申請、地震に起因する紛争の解決、自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインに基づく債務整理を含む債務の処理など、更に多数の法律相談や紛争解決手続の必要性が高い状況が続くと見込まれる。

    このような状況であるにもかかわらず、上記のとおり、被災者法律相談援助制度が1年間で終了してしまうのであれば、被災者に対する法的支援としては極めて不十分であると言わざるを得ない。

    後記のとおり、東日本大震災の際には、「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」に基づき、発災から約10年の間、被災地に住所等があった者であれば、資力を問わず法テラスにおける法律相談援助を受けられることが可能であった。

    災害救助法による仮設住宅の入居期間は原則として2年間であるところ、災害救助法が適用され、仮設住宅が供与されることとなった災害においては、少なくともその2年程度の期間中は、生活再建に向けた支援が必要である。そうであれば、生活再建のために法律相談を受けたいという需要も同じ期間中存在しているのであるから、被災者法律相談援助の実施期間を規定する法第30条第1項第4号を改正し、現在の最大1年間から、少なくとも2年間に延長すべきである。

    そして、多くの災害において、仮設住宅の入居期間が延長されるに至っている実情からすれば、2年経過後も、被災者の生活再建のための支援が必要となる場合が多いのであるから、原則として2年の期間としつつも、政府の決定により柔軟に延長できることとすべきである。

    このような法改正は、能登半島地震のみならず、今後発生する可能性がある大規模な自然災害への対応を考えても必要なものであることから、国は、速やかに総合法律支援法を改正すべきである。

  3.  特例法制定の必要性について

    平成23年に発生した東日本大震災の際には、上記の総合法律支援法に基づく非常災害の指定の制度はまだ存在しなかったが、発災から約1年後の平成24年3月23日に、「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」が制定され、同年4月1日から施行された。この特例法による制度は、被災地に住所等があった者であれば、資力を問わず法テラスにおける法律相談援助を受けられることに加え、震災に起因する法的紛争に係る代理援助等を受けられること、裁判所の手続のほかにADRなどが代理援助・書類作成援助の対象となること、事件の進行中は立替金の返済が猶予されることなどの特色があり、当初は3年間の時限立法であったが、発災から約10年後の令和3年3月31日まで期間が延長された。

    能登半島地震については、東日本大震災以降最大規模の被害が生じていることに加え、災害からの復旧や生活再建が様々な事情から停滞していることからすれば、能登半島地震に関しても同様の特例法を制定し、法テラスによる支援を拡充すべきである。

2024年(令和6年)11月18日
富山県弁護士会 会長 浦 田 秀 幸