決議文・意見書・会長声明

罹災証明手続・公費解体手続等の申請期限について被災者への配慮を求める会長談話

2024.09.05

第1 生活再建のための情報収集には時間がかかること

令和6年能登半島地震の発災から8ヶ月が経過しました。多くの被災者の方々が各種被災者支援制度を検討・利用して生活再建のため奔走されておられることと思います。

当会では、法律の専門家として被災された方々の生活再建のため、一人の被災者も取り残さないという決意の下、全力で法的支援に取り組んでまいりました。

無料法律相談会や関係機関を訪問しての支援制度の説明といった活動を通じて、発災から半年以上経過した今でも被災者の方々に寄り添った支援がまだまだ必要であると痛感しております。ご自分がどのような支援制度を利用できるかという適切な情報を得られないでいる方もおられますし、高齢である等の諸事情によりご自身で支援制度の申請が困難で、支援を受けられないままでいる方もおられます。また、公費解体を利用すべきか自宅を修繕して住み続けるかを決めるにあたって必要な費用などの情報が揃わず決めかねている方々もおられます。

ところが、地方公共団体によっては、罹災証明書や公費解体等の被災者支援制度について申請期限や受付期限を設けているところもあります。そのため、生活再建の目途を付けるには時間がかかることが予想されるにもかかわらず、期限があるがために、必要な情報が揃わないまま自宅の解体か修繕かを決断せねばならないということや、期限に間に合いそうにないという理由で被災者支援制度の利用を諦めてしまうという事態が生じることが懸念されます。

そこで、各地方公共団体におかれては、以下のとおり、被災者の方々が取り残されることのないよう、罹災証明手続や公費解体手続等について、期限を設けないなどの被災者に寄り添った対応をご検討いただきたいと考えます。

第2 罹災証明手続について

罹災証明手続について定める災害対策基本法90条の2は、罹災証明について何らの期限も定めておりません。ところが、県内市町村では、すでに申請受付を終了したとするもの、令和6年9月末までとするものがあり、また二次調査については罹災証明書の交付日から三ヶ月以内とするものなどがあります。

しかしながら、諸事情により被災者支援制度についての適切な情報を得られず罹災証明書の申請に至っていない方々もおられます。また、二次調査については一次調査の結果について建築士等の専門家に相談するなどして情報を集め、二次調査の必要があるか検討する時間も必要です。

現状の各種被災者支援制度は、罹災証明書の交付が前提となっているものがほとんどです。そのため、被害の実情に見合った罹災証明書の交付が受けられない場合、被災者は、各種被災者支援制度による支援まで受けることができなくなってしまい、極めて大きな不利益を受けることになってしまいます。

以上のとおり、罹災証明手続について、申請期限を設ける運用は適切ではなく、被災者の方々が必要な情報提供を受け、かつ、検討等に必要な時間を充分に確保できるように配慮すべきです。

第3 公費解体手続について

公費解体手続についても、県内市町村では、受付期限を令和6年9月末とするもの、同年12月末とするもの、令和7年3月までとするもの等があります。

公費解体手続を申請するか、自宅の修繕を選択するかは簡単に判断できるものではなく、適切に判断するためには、例えば修繕が可能なのか、可能としてどの程度の費用を要するか、解体した場合・修繕した場合の両方についてどのような支援金・給付金の交付を受けられるのか等の多くの情報が必要となります。さらに、自宅を解体して転居するとすれば転居先の確保も必要ですし、慣れ親しんだ自宅を離れるということは簡単に思い切れるものではありません。こうした情報を十分に集め、検討し、家族で話し合って判断を下すことは、短い期間でできるものではありません。

また、当会が行っている被災者向け法律相談には、公費解体の申請にあたって、不動産の相続手続が未了であるため相続人の調査をして各相続人の同意を得なければならないとか、相続人の所在が不明であるといった相談も相当数寄せられております。被災した不動産の中には、相続登記がなされていない不動産も多数あるものと推測され、こうした事案では、公費解体の申請までにかなりの時間を要します。

以上の事情から、公費解体についても、少なくとも現時点で受付期限を設けることは適切ではなく、被災者の方々が必要な情報提供を受け、検討や相続等の前提手続に必要な時間を十分に確保できるように配慮すべきです。

第4 結語

当会は、これまでと変わらず被災者を一人も取り残さないという決意の下、被災者支援に取り組む所存であり、このためにも県内の各地方公共団体に対して、罹災証明手続や公費解体手続等の被災者支援制度について期限を定めることはせず、被災者の方々に配慮した運用をされるよう要望致します。

以上

2024(令和6)年9月5日
富山県弁護士会 会 長 浦 田 秀 幸