決議文・意見書・会長声明

生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明

2013.04.24

政府は、本年度予算編成において焦点とされてきた生活保護基準の引下げについて、生活保護世帯の生活費にあたる生活扶助費を、平成25年から平成27年の3年間で、総額670億円減らす方針を固めた。削減幅は平均6.5%(最大10%)で、この基準引下げによって受給額が減る世帯は96%に上るという。現行生活保護法が制定された昭和25年以来、生活保護基準が引下げられたのは2回だけであり、しかも0.9%の削減幅であった平成15年度、0.2%の削減幅であった平成16年度と比較すると、今回は前例のない大幅引下げである。

しかし、生活保護基準は、憲法25条の保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を具体化したもので、いわば国民の命を守るための最終ラインを決する意義をもつ、極めて重要な基準である。そもそも、現行の生活保護基準ですら、あるべき最低生活費としてふさわしいとは言えないとの指摘もある中、更なる基準の引下げは、憲法の精神に悖る行為に他ならない。

また、生活保護基準は、国民健康保険料の減免基準、生活福祉資金の貸付対象基準、公立高校の授業料の減免基準、地方税の非課税基準といった、医療・福祉・教育・税制などの多用な施策の適用基準にも連動している。生活保護基準の引下げは、現に生活保護を利用している人の生活レベルを低下させるだけでなく、市民生活全体に大きな影響を与えるのである。 したがって、生活保護基準の引下げに当たっては、生活保護受給者はもとより、国民全体の意見を十分に聴取し、多方面からの慎重な検討を重ねることが必要不可欠であるところ、現状においては、そのような検討がなされたとは到底言えない。

さらに、平成22年4月9日付で厚生労働省が公表した「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計」では、生活保護制度の利用資格を有している者のうち、現に生活保護の受給を受けている者が占める割合は、2割から3割程度とされており、残りの7割以上の者は、生活保護基準を下回る所得のみで生活せざるを得ないのが現状である。そうすると、低所得者の消費支出と生活保護基準を比較して生活保護基準が高くなるのは当然であって、これを理由とする安易な保護基準の引下げを一度認めてしまえば、今後も同様の理由から引下げが際限なく繰り返される事態となりかねない。

むしろ、問題とすべきは、生活保護基準の相対的な高さではなく、生活に困窮し、生活保護を利用する資格があるにもかかわらず、適切に制度を利用することができない国民(生活保護漏給層)に対して、生活保護の受給を受けさせるための十分な政策が採られていないことである。

加えて、一連の生活保護基準の引下げの理由として、生活保護の不正受給の増加や、物価の下落がしばしば指摘される。しかしながら、不正受給自体が許されるものでないことは当然としても、不正受給は金額ベースにして0.4%弱で推移しており、近年目立って増加している事実はない。また、物価下落の主な原因は、家具・家事用品費及び教養娯楽費(特に家電製品)が大幅に下落したことにあり、食料費の大幅な下落は見られず、光熱・水道費に至っては高騰している。生活保護世帯は一般世帯に比して、食料費や光熱・水道費が家計に占める割合が大きく、教養娯楽費が占める割合は小さいことからすると、生活保護世帯の生活は、むしろこれまでよりも苦しいものとなっているのである。

このように今般の生活保護基準の引下げに関する政府の決定は、最大限尊重されるべき憲法の精神を蔑にし、国民全体への影響に対する配慮を欠いたまま、合理的根拠もなしに、単に財政的見地から「初めに引下げありき」という姿勢で一方的に決せられたものであって、到底許されるべきものではない。

よって、当会は、政府に対し、生活保護利用者や市民の声を十分に聴取し、慎重な検討を行うよう、強く求めるとともに、安易かつ拙速な生活保護基準の引下げには強く反対するものである。

2013(平成25)年4月24日

富山県弁護士会  会 長  藤 井 輝 明