決議文・意見書・会長声明

えん罪被害者救済のため、再審法の速やかな改正を求める決議

2023.12.11

決議の趣旨

当会は、えん罪被害者の速やかな救済のために、政府及び国会に対し、以下の内容を含む再審手続に関する刑事訴訟法及び刑事訴訟法施行法の規定(以下、「再審法」という。)の改正を速やかに行うよう求める。

1 再審請求手続における証拠開示の制度化
 2 再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止

決議の理由

  1.  えん罪は、国家による最大の人権侵害の一つである。
     当会所在地である富山地方裁判所管内においても、えん罪被害は発生している。例えば2002年1月及び同年3月に富山県氷見市で発生した強姦・同未遂事件、いわゆる氷見事件がその一つである。同事件で有罪判決を受けた元被告人に対して、富山地方裁判所高岡支部は、2007年10月、同事件の再審事件において無罪判決を言い渡し確定したものの、この間、同人は約2年2か月もの長期にわたり刑務所に服役を余儀なくされており、同人が被った被害は誠に甚大で筆舌に尽くし難い。
     この他にも全国的には近時、2011年に布川事件、2012年に東京電力女性社員殺害事件、2016年に東住吉事件、2019年に松橋事件、2020年には湖東記念病院事件において、それぞれ再審によって無罪判決が確定しているものの、これら事件のえん罪被害者らの被った被害は同様に甚大なものである。
  2.  このような人権を侵害されたえん罪被害者を救済する最後の手段として、再審制度が存在している。しかし、先に挙げた事件のように再審開始決定、再審公判を経て、無罪判決にまで至る例は極めて稀である。再審は、現実には「開かずの扉」と評されるほどそのハードルが高く、えん罪被害者の救済は遅々として進んでいない。これは、各事件固有の問題ではなく、現在の再審制度の構造的な問題によるものである。
  3.  現行法上、再審法といえる刑事訴訟法第4編再審の規定はわずか19か条の条文しかない。そのため、再審請求手続に関する詳細な規定は存在せず、再審請求手続はその大半が個々の裁判体の広い裁量に委ねられることとなっている。手続の公正さや適正さが制度的に担保されておらず、再審請求を行う者に適正手続(憲法31条)が保障されているとは到底言うことのできない状況である。
     このような再審制度の構造的な問題点を解消・解決するためには、再審法を改正することが必要である。再審法改正により再審請求手続に関する詳細な規定を設けることで、再審請求手続における審理の適正を担保することができ、また個々の裁判体による不統一な運用を廃して公平性を確保することができる。
  4.  そして、他にも検討すべき点はあるものの、特に、再審請求手続における証拠開示の制度化と再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止の2点は、極めて早急に法改正が必要な課題である。
    1. 再審請求手続における証拠開示の制度化
       過去の多くのえん罪事件では、警察や検察庁といった捜査機関の手元にある証拠が再審請求手続又はその準備段階において開示され、その証拠が再審開始の判断に大きな影響を及ぼしており、再審請求手続における証拠開示の制度化が重要であることが改めて明らかとなった。
       しかし、再審請求手続における証拠開示について現行法には明文の規定が存在せず、再審請求手続において証拠開示がなされる制度的保障はない。そのため、現状では裁判官や検察官の対応いかんで、証拠開示の範囲に大きな差が生じており、このような格差を是正するためにも、証拠開示のルールを定めた法律の制定が不可欠である。
       再審請求手続における証拠開示の問題については、2016年の刑事訴訟法改正時にも法制審で議論されている。そして、法制化には至らなかったものの改正附則9条3項において、「政府は、この法律の公布後、必要に応じ、速やかに、再審請求審における証拠の開示・・・について検討を行うものとする。」と規定された。しかし、それから7年が経過しているにもかかわらず、現在も法制化の目途は全く立っていない。再審請求手続における証拠開示を明文化する再審法改正を早急に実現する必要がある。

    2. 再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止
       再審開始決定を得たとしても、検察官のこれに対する不服申立てにより更に審理が長期化し、時には再審開始決定が取り消されるという事例が相次いでおり、えん罪被害者の速やかな救済が妨げられている。
       例えば、大崎事件再審請求は、第1次請求の鹿児島地方裁判所、第3次請求の鹿児島地方裁判所及び福岡高等裁判所宮崎支部で再審開始を認める決定が出されたにもかかわらず、検察官の不服申立てにより再審開始決定が取り消された。第1次請求における鹿児島地方裁判所での2002年の再審開始決定から現在まで、21年もの年月が経過しており、元被告人は96歳と相当に高齢となっている。もはや一刻の猶予も許されない状況である。
       そもそも、利益再審(有罪判決を是正し、無罪とする再審)だけが認められ、不利益再審(無罪判決を是正し、有罪とする再審)が認められていないことからも、再審制度がえん罪被害者救済のためだけに存在していることは明らかである。
       また、再審開始決定は、裁判をやり直すことを決定するにとどまり、有罪・無罪の判断はあらためて再審公判において行われる。再審開始決定はいわば中間的な判断である。仮に検察官が確定判決の正当性を主張する必要があると考えたとしても、再審公判においてそのような主張を行う機会は保障されており、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止しても不都合は生じない。
       そうであるにもかかわらず、現行法が再審開始決定に対して検察官の不服申立てを認めていることにより、えん罪事件の長期化を招いている。
      したがって、再審請求手続の無用な長期化を防ぎ、えん罪被害者を速やかに救済するためにも、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止する必要がある。
  5.  よって、当会は、政府及び国会に対し、えん罪被害者の速やかな救済のために、再審請求手続における証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止を含む再審法の改正を速やかに行うよう求める。

以上のとおり決議する。

2023年(令和5年)12月8日
富山県弁護士会