決議文・意見書・会長声明

「反撃能力」保有に反対し、立憲主義の堅持を求める会長声明― 第212回臨時国会の開催にあたって ―

2023.10.27

  1.  政府は2022年12月16日、「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」のいわゆる安保3文書を改定する閣議決定を行った。
     改定された3文書には、「相手の領域内において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」としての「反撃能力」を保有することが盛り込まれている。
     また、「同盟国である米国との協力を一層強化することにより、日米同盟の抑止力と対処力を更に強化する」ことが謳われている。
  2.  新たに保有するとされる「反撃能力」は、従来は一般に「敵基地攻撃能力」と呼称されてきた概念であるが、攻撃対象はミサイル発射「基地」に限定されず、指揮統制機能等も含まれると解されている。「反撃能力」の保有は、我が国の領海、領空とその周囲の公海、公空を超えて他国を直接、攻撃できる兵器を保有し、常時他国を攻撃できる状態に置くことを意味する。
     政府はこれまで、憲法9条2項にいう「戦力」について、自衛のための必要最小限度の実力はこれに該当しないと解釈し、いわゆる専守防衛政策の下、「性質上専ら相手国の国土の壊滅的破壊のためにのみに用いられる攻撃的兵器」、「他国の領域に対して直接的脅威を与えるもの」(例えば、ICBM、中距離弾道弾、長距離戦略爆撃機、潜水艦発射長距離弾道弾、攻撃型空母等)の保有は禁止されるとの見解をとってきた。しかるに、「反撃能力」は相手国の領域に直接的な攻撃を加えることを可能にするものであって、「戦力」に該当することは明らかである。
     安保3文書は「専守防衛、非核三原則の堅持等の基本方針は不変」だとしているが、自らが認めるとおり、まさに「戦後の防衛政策の大きな転換点」であり、「反撃能力」の保有は明らかに憲法9条2項に違反する。
  3.  さらに、「反撃能力」の保有が憲法9条1項に違反する「武力の行使」につながらないか、深刻な懸念がある。
     当会は一貫していわゆる安保法制の違憲性を指摘してきた(2015年7月8日「集団的自衛権行使容認に反対し、安全保障法制関連法案の廃案を求める決議」等)が、集団的自衛権の行使を容認するこの安保法制の下で「反撃能力」を持つならば、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」(存立危機事態)においては、我が国が攻撃を受けていなくても、密接な関係にある他国の相手国を直接、攻撃することになる。すなわち、先に述べた「反撃能力」の保有を認めた安保3文書により、集団的自衛権行使の場面においても相手国の領域に及ぶ「反撃」を行うことが可能となり、憲法9条1項が禁じた「武力の行使」が行われるおそれがより高まるものである。
     なお、「反撃能力」の保有が直ちにその行使につながるわけではないものの、安保3文書は「日米同盟の抑止力と対処力を更に強化する」と明確に述べており、我が国政府は、日米同盟強化のために「反撃能力」を行使することを想定していると受け止めざるを得ない。
  4.  以上のとおり、安保3文書の改定による「反撃能力」の保有は明らかに憲法9条2項に違反するとともに、その行使により憲法9条1項に違反する「武力の行使」につながるおそれが高い。
     こうした憲法違反の改定を政府の閣議決定で行うのは、憲法96条が明記する憲法改正手続を回避し、政府限りで実質上の改憲を行うことにほかならない。それは、国民代表機関たる国会の憲法改正発議権をないがしろにし、さらには主権者国民の憲法改正権を侵害するものであり、立憲主義に反する。
     先の安保法制制定の際にも、当時の政府の閣議決定によって解釈改憲がなされ、それまで違憲とされていた集団的自衛権の行使を合憲とする前提の下、安保法制が成立している。今般再び政府の閣議決定によって「反撃能力」の保有を認めることになるなら、立憲主義はないがしろにされてしまうのであり、当会はそのことを強く憂うものである。
  5.  先の第211回通常国会では、「反撃能力」保有の憲法適合性については議論が尽くされないまま、防衛財源を確保するための特別措置法や、防衛産業への支援を強化するための防衛生産基盤強化法等が成立している。このように先の国会では、政府による実質上の解釈改憲の是非を問い、その責任を追及する審理はなされなかったものといわざるを得ず、政府限りの決定による専守防衛政策からの訣別は、日本国憲法の恒久平和主義を危うくしないか、強い懸念を呼び起こす。
     今般、10月20日、第212回臨時国会が召集され、国会審議が始まっているが、国権の最高機関であり、政府を監視すべき国会は、いまこそ、その責務を全うしなければならない。
     よって、当会は、臨時国会の開催にあたり、憲法違反の「反撃能力」の保有に反対することを明らかにし、立憲主義を堅持すべく国会がその責務を果たすよう求めるものである。
  6. 2023年(令和5年)10月25日
    富山県弁護士会 会長 武 島 直 子