決議文・意見書・会長声明

「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」に対する反対の会長声明

2012.02.29

現在政府では、政府が保有する特に秘匿を要する情報の漏えいを防止することを目的とする秘密保全法制の制定に向けて準備が進められており、2011(平成23)年8月8日付で「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(以下「報告書」という。)が公表されているが、当会としては、以下の理由により、報告書が提言する秘密保全法制の制定には反対である。

1 立法を必要とする理由を欠くこと

報告書では、「我が国の利益を守り、国民の安全を確保するため」に秘密保全法制が必要であるとしているが、この立法目的は漠然としていて不明確である。
 また、報告書が提言している秘密保全法制は、国民主権に由来する積極的な情報公開をすべきとの要請に反し、立法の必要性を裏付ける事情も存在しない。

2 憲法上の諸原理に反すること

報告書が提言している秘密保全法制は、取材の自由、報道の自由、知る権利、学問・研究活動の自由、言論・表現の自由、出版の自由等の憲法上の諸原理と根本的に矛盾抵触するものであり、また、公益通報者保護制度の立法目的にも逆行するものである。

3 「特別秘密」が広範不明確であること

報告書では、秘密保全法制の対象となる「特別秘密」について、国の安全、外交、公共の安全及び秩序の維持の3分野を対象とするとしつつ、「自衛隊法の防衛秘密の仕組みと同様に、特別秘密に該当し得る事項を別表等であらかじめ具体的に列挙した上で、高度の秘匿の必要性が認められる情報に限定する趣旨が法律上読み取れるように規定しておくことが適当」であるとされてはいるが、その概念は過剰に広範で不明確であり、それをもとに自由刑や罰金刑といった罰則等を課すことは、国民の知る権利等が侵害される可能性が顕著である。

4 人的管理に関する検討が不十分であること

報告書は、国の行政機関、独立行政法人、民間事業者等の秘密情報を取り扱う者について、秘密情報を取り扱う適性を有するかを判断する制度である適性評価制度の整備が必要であるとしているが、適性評価では対象者のプライバシーに深く関わる調査が行われることになるところ、評価対象者のプライバシー保護のほか、思想・信条等による差別的取扱いの禁止、センシティブ情報の保護、評価結果に対する不服申立等の適正な手続きの保障及び司法手続といった、検討されるべき事項についての検討が不十分であるか、または何ら検討されていない。

5 罰則の不当なこと

報告書が提言する秘密保全法制では、特別秘密の故意の漏えい行為、過失の漏えい行為、特定取得行為、未遂行為、共謀行為、独立教唆行為及び扇動行為をそれぞれ処罰すべきものとしているが、そもそも保護されるべき特別秘密自身の概念が極めて不明確であり、かつ、無限定な広がりがあるため、国民にとって予測可能性を欠き、処罰範囲が不当に広がることになる。特に、過失の漏えい行為、共謀行為、独立教唆行為及び扇動行為については、いずれもその外延が不明確であるために、予測可能性は極めて低くなる。
 また、法定刑については、自由刑及び罰金刑が検討されているところ、その上限を懲役5年または10年まで引き上げるという重罰化が図られようとしており、過度な萎縮効果をもたらすおそれがある。

2012(平成24)年2月29日

富山県弁護士会  会長 作 井 康 人