決議文・意見書・会長声明
法曹人口の急激な増加を改め、司法修習生に対する適切な経済的支援を求める声明
2013.03.28
2012(平成24)年7月27日、国会で裁判所法の一部改正に関する法律が成立し、政府は、法曹養成制度全般につき法曹養成制度検討会議において検討を行い、1年以内に一定の結論を得て、速やかに必要な措置を行うことされ、昨日、同検討会議の佐々木毅座長は、司法試験の合格者数を「年間3千人程度」とした政府目標の撤廃などを盛り込んだ中間提言案(座長私案)を公表しました。報道によればこれに対しては異論が相次いだといいます。
ところで、私ども弁護士は基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし(弁護士法第1条)、裁判官や検察官とともに日本の司法制度を支える職責を有していますが、この司法制度は、多様で有為な人材、質の高い法曹によって支えられなければならないと考えます。
ところが、司法制度改革後の司法試験合格者数の大増員と、司法修習生の給費制の廃止は、司法修習修了者の就職難、司法試験志願者の減少、さらには法学部や法科大学院の志願者の減少という事態を引き起こしています。また、裁判官や検察官の数はほとんど増やされず弁護士だけが急激に増員され、弁護士の経験年数別構成が極端にいびつになったことや就職難によってOJTの機会が不足し、大量合格や司法修習期間の短縮とあいまって、弁護士の質の低下が懸念されています。このような事態は、将来の法曹の質に重大な影響を与え、日本の司法制度にも弊害をもたらすだけでなく、法学部の不人気は給源不足による公務員制度への悪影響にも結びつきかねず、直ちにこの事態を改善することが喫緊の課題です。
日本弁護士連合会は、2012(平成24)年3月に「法曹人口政策に関する提言」を公表し、司法試験合格者数をまず1500人にまで減員し、更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要、問題点の改善状況を検証しつつ対処していく旨の政策提言を取りまとめ、これが法曹養成制度検討会議の審議に反映されるよう努力を重ねています。
また、2012(平成24)年11月27日、第66期の司法修習が開始され、約2000人の司法修習生が全国各地の地方裁判所所在地に配属され、富山県でも9人が修習をしていますが、司法修習生は、司法を担う法曹としての高い専門性を修得するため1年間司法修習に専念する義務を負っているため(裁判所 法第67条第2項)、兼業・兼職が禁止され、司法修習を行いながら収入を得ることはできません。ところが、修習をするには、比較的高額な実務書や参考文献の購入、そして、全国各地に配属されるため引越費用や住居費、就職活動のための旅費などの出費も余儀なくされます。このような実態を踏まえ、以前は司法修習中の生活費等の必要な費用が国費から支給されていました(以下「給費制」といいます。)が、2011(平成23)年11月に司法修習を開始した新第65期の司法修習生からは給費制は廃止され、司法修習費用を貸与する制度に移行しました(以下「貸与制」といいます。)。
日本弁護士連合会は、2012(平成24)年6月、新第65期司法修習生に対し、司法修習中の生活実態を明らかにすることを目的としてアンケートを実施しましたが、このアンケートの集計結果によれば、経済的理由から法曹への道をあきらめることを検討した者が3割近くもいる実態が明らかになり、改めて貸与制の不合理さが明確になりました。また、配属地決定後に司法修習を断念し、公務員などに就職する者が、富山県も含め全国でみられます。こうした負担の重さが法曹志願者を減少させ、有為で多様な人材が法曹の道を断念する一因となっているのです。
前記の裁判所法の一部を改正する法律では、「司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から、法曹の養成における司法修習生の修習の位置付けを踏まえつつ、検討が行われるべき」(付則)ことが確認され、これを受けて政府の法曹養成制度検討会議ではこの点についても検討が進められています。
よって、関係諸機関においては、
1 法曹人口が現在のように急激に増加されるのではなく、実需に見合い将来にわたって法曹の質を確保できる、調和の取れた制度になること、
2 有為で多様な人材が経済的事情から法曹の道を断念することがないよう早急に給費制の全部または一部の復活を含む司法修習生に対する適切な経済的支援措置が採られることを求めます。
また、当会としましては、今後も、これらの点を市民の皆様にご理解いただき、ご支持いただけるように、積極的に説明と広報に努める所存です。
2013(平成25)年3月28日
富山県弁護士会 会長 青 島 明 生