決議文・意見書・会長声明

商品先物取引法における不招請勧誘禁止規制の緩和に反対する会長声明

2014.04.23

経済産業省及び農林水産省は、2014(平成26)年4月5日、「商品先物取引法施行規則」及び「商品先物取引業者等の監督の基本的な指針」の改正案(以下、「本改正案」という。)を公表して意見公募手続を開始した。

本改正案は、商品先物取引法施行規則102条の2を改正することにより、ハイリスク取引の経験者に対する電話・訪問勧誘を従前より広く認めるだけではなく、7日間の熟慮期間を設けること等の条件の下で、70歳未満の消費者への電話・訪問勧誘による取引を幅広く認める内容となっている。

しかし、本改正案の内容は、商品先物取引の不招請勧誘禁止規制を大幅に緩和し、事実上解禁するに等しいものであり、商品先物取引法に不招請勧誘禁止規定が設けられた過去の経緯等に照らして、到底容認できないものである。

そもそも、商品先物取引は、もともとその仕組みが複雑で消費者に理解しがたく、かつ、極めてリスクの高い取引であることに加え、悪質な業者が、突然の電話や訪問による勧誘によって、商品先物取引の知識や経験に乏しい消費者を取引に巻き込んできたことで、深刻な被害を与えてきた実態がある。そして、こうした被害は、数次にわたる行為規制の強化だけでは防ぐことができなかったことから、より抜本的な対策として、2009(平成21)年7月の商品先物取引法改正で、顧客の要請によらない電話や訪問による勧誘(不招請勧誘)を原則として禁止するという内容の不招請勧誘の禁止規定(同法214条9号)が設けられて、2011(平成23)年1月より施行されたのである。そして、この法改正の際の国会審議では、政令で指定されることとなっている不招請勧誘禁止規定の対象について、①当面、一般個人を相手方とするすべての店頭取引と、初期の投資以上の損失が発生する可能性のある取引所取引を政令指定の対象とすること、 及び、②施行後1年以内を目処に、政令指定の対象を見直し、必要に応じて一般個人を相手方とする取引全てに対象範囲を拡大すること、を内容とする附帯決議もなされている。

ところが、本改正案は、事実上、70歳未満の個人顧客に対する不招請勧誘を全面解禁するに等しいものであり、内容的に極めて問題のあるものである。本改正案は施行規則において7日間の熟慮期間を設定しているが、従前の被害事例では、電話や訪問による勧誘をきっかけに、先物取引業者から、断定的判断を提供されたり、利益が出ることをことさらに強調した説明を繰り返し受けることによって、取引の仕組みやリスクについて十分に理解することができないままに取引を決意させられるケースが多く、このようにしていったん取引を決意させられた顧客が、現実に取引を開始する前のわずか7日間のうちに、その危険性に気付いて取引から離脱することはほとんど不可能である。本改正案では、取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあること等についての顧客の理解度を確認することとされているが、従前の商品先物取引の勧誘においても、このような理解度の確認が行われることになっていながら、現実には、形式的な書類の体裁を整えるだけで理解度の確認が十分になされていない事例が少なくなかったのである。また、本改正案では、施行規則の改正と合わせて監督指針の改正を行い、年金等生活者への勧誘や、習熟期間を経過しない者に対する一定規模を超える取引の勧誘は、電話や訪問による不招請勧誘によっては行えないようにするもののようであるが、このような勧誘の制限は、従前も主務省のガイドラインにおいて同様の規定が置かれていたにもかかわらず、なお被害が多発していたものであるから、被害 の発生に対する十分な歯止めとなることは期待できない。

さらに、本改正案は、前記のような不招請勧誘規制の立法の経緯や附帯決議の存在を無視して、法律及び政令による厳格な不招請勧誘禁止の規制を、省令によって事実上解禁しようというものであるから、手続的にも極めて不適切である。

このように、本改正案は、内容的にも、手続的にも、極めて問題の大きいものであり、到底看過することはできないものである。

商品先物取引における不招請勧誘禁止規定の見直しについては、2012(平成24)年8月に産業構造審議会商品先物取引分科会が取りまとめた報告書において、「不招請勧誘の禁止の規定は施行後1年半しか経っておらず、これまでの相談・被害件数の減少と不招請勧誘の禁止措置との関係を十分に見極めることは難しいため、引き続き相談・被害の実情を見守りつつできる限りの効果分析を試みて行くべきである。」として、当面、商品先物取引に関する不招請勧誘規制を維持することが確認されると同時に、「将来において、不招請勧誘の禁止対象の見直しを検討する前提として、実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ、不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられるなどの状況を見極めることが適当である」とされていたのである。しかしながら、現在においても、いったん別商品の勧誘により顧客との接点を得るや、まもなく通常の先物取引を勧誘し多額の損失を生じさせている被害が少なからず発生しているという実態があるほか、昨年12月には、不招請勧誘禁止規定違反があるとして商品先物取引業者が行政処分を受けている。したがって、現時点で、不招請勧誘禁止規制の緩和が許容されるような状況には至っておらず、規制は維持されなければならない。

本改正案に対しては、本年4月8日付で内閣府消費者委員会が、「消費者保護の観点から見て、重大な危険をはらむ」として再考を求める意見を発出している。当会も、従前から、商品先物取引の不招請勧誘禁止を強く求めており、2013(平成25)年11月27日には「改正金融商品取引法施行令に商品先物取引に関する市場デリバティブを加え、商品先物取引についての不招請勧誘禁止を維持することを求める会長声明」を発出し、総合取引所における商品先物取引についても不招請勧誘禁止を維持することを求めたところである。

当会は、消費者保護の観点から、商品先物取引の不招請勧誘禁止規定を骨抜きにするような本改正案には、強く反対する。

2014(平成26)年4月23日

富山県弁護士会   会 長   島 谷 武 志