決議文・意見書・会長声明

死刑執行に対する会長声明

2022.08.26

2022年7月26日、東京拘置所において1名の死刑が執行された。昨年12月21日に死刑が執行されて以来、古川禎久前法務大臣が就任後2度目かつ4人目の執行である。

これまで当会は、政府に対し、死刑執行を停止した上で、死刑制度の存廃についての国民的議論を深めるために死刑に関する情報を広く国民に公開するよう求める会長声明を、再三発出してきた。
 しかしながら、死刑に関する情報(死刑確定者の処遇、刑場の状況、執行方法、死刑執行の意思決定過程等)が広く国民に公開されることも、死刑制度の存廃についての国民的議論が深められることもないまま、今回、再び死刑が執行されるに至った。このことは大変遺憾である。

今回執行された死刑確定者は、再審請求中であった。再審請求中の死刑執行については、国際連合の自由権規約委員会が、日本の第6回定期報告に対する最終見解で、日本の死刑制度に関して、再審請求に死刑の執行停止効がないことなどの問題点があると指摘している。この点においても今回の死刑執行には問題があり、当会は今回の死刑執行に対し強く抗議する。

世界的に死刑廃止の流れが進んでいる。死刑を廃止又は停止している国は、2021年12月31日時点で、国連加盟国193か国のうち144か国に上っている。米国では、司法長官より連邦レベルでの死刑の執行を停止する指示が出される状況となっている。法務省は、死刑制度の存廃について、「基本的には、各国において、独自に決定すべき問題」としているが、もはや国際的な視点抜きに、死刑制度の当否を議論できないことは明らかである。

また、本年6月に懲役刑と禁固刑が一本化されて拘禁刑に再編する刑法改正がなされた。これは、「応報を主眼とする刑罰制度」から「更生と教育を主眼とする刑罰制度」への移行を意味するものであるが、死刑は罪を犯した者の更生を指向しない刑罰であり、拘禁刑へ制度変更した理念と相容れない異質なものである。

法務省は、従前から、死刑制度を存置させ続ける理由として、世論調査において多数の支持が得られていることを挙げてきた。しかし、世論調査でも、死刑に代えて導入される刑罰の内容次第では死刑の廃止も受け入れられる余地があることが示されているところであるし、国際連合の自由権規約委員会等からは、「世論調査の結果にかかわらず」死刑制度の廃止を考慮するよう何度も勧告を受けている。したがって、世論調査をよりどころに死刑制度の存置を正当化することは許されない。

当会は、改めて今回の死刑執行に強く抗議するとともに、再度、死刑執行を停止した上で、死刑制度の存廃についての国民的議論を深めるために死刑に関する情報を広く国民に公開することを政府に対して求める。

 

2022年(令和4年)8月24日

富山県弁護士会 会長  坂 本 義 夫