決議文・意見書・会長声明
最高裁判所大法廷決定を受けて、改めて民法750条を改正し、選択的夫婦別姓制度を導入することを求める会長声明
2022.02.18
- 2021年(令和3年)6月23日、最高裁判所大法廷は、夫婦同氏を強制する民法750条は憲法に違反するものではないと判断した。その理由は、2015(平成27)年12月16日大法廷判決(以下、「2015年大法廷判決」という。)の判断を敷衍するもので、2015年大法廷判決以降の諸事情等を踏まえても、判断を変更すべきものではないとした。
- しかしながら、日本弁護士連合会が「選択的夫婦別姓制導入並びに非嫡出子差別撤廃の民法改正に関する決議」(1996年10月25日)、「選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書」(2021年8月19日)などで指摘するとおり、民法750条は、氏を変更したくない者にもその意に反し、かつ、信条に反して改氏を強制するものであって、事実上、多くの女性から実質的に氏の選択の機会を奪う結果をもたらしており、憲法13条、14条及び憲法24条に違反している。
また、民法750条は、各配偶者に婚姻前の氏を選択する権利を認めた女性差別撤廃条約等にも違反するものである。この点、国連女性差別撤廃委員会は、夫婦同氏を強制する現行制度について、日本政府に対し、再三勧告を発出している。同委員会は、2016年3月の勧告において、2015年大法廷判決についても遺憾の意を表明した上で、再度、女性が婚姻前の氏の保持を可能にする制度の制定等を求めている。 - 今回の大法廷決定では、多数意見は、「夫婦の氏についてどのような制度を採るのが立法政策として相当かという問題と、夫婦同氏制を定める現行法の規定が憲法24条に違反して無効であるか否かという憲法適合性の審査の問題とは、次元を異にするものである」との前提に立ち、民法750条は憲法に違反しない旨判断している。
しかし、事実上改氏を強制され不利益を受ける少数者の人権は、人権の最後の砦である裁判所でこそ判断されるべきであった。多数意見は、民法750条の違憲性について事実上検討がなされておらず、極めて不当である。
ただし、今回の大法廷決定では、4名の裁判官が、詳細な検討を加えた上で、民法750条が改氏を強制する点で憲法24条に反するとの意見を付している。2015年大法廷判決と同様、最高裁大法廷内で意見が分かれていることも、決して無視できない事実である。 - 今回の大法廷決定の多数意見においても、いわゆる選択的夫婦別姓制度の導入については、あえてこれを否定しておらず、「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」であるとする。この点は、2015年大法廷判決も同様であり、多数意見の補足意見でも、国会での議論を強く要請している。
2015年大法廷判決後、各種世論調査では選択的夫婦別姓制度の導入を容認する割合が高まっており、2015年大法廷判決以降、選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書等を採択する地方議会も増え続けている。
2015年大法廷判決においても、夫婦同氏制の下での不利益を避けるために、あえて婚姻をしない選択をする者が存在することも指摘されているが、選択的夫婦別姓制度の導入は、そのような選択をせざるを得ない夫婦が法的に家族となる道も開かれることになる。
これら多数の国民の声に応え、選択的夫婦別姓制度の導入について具体的に議論することが国会の責務であり、最高裁判所が2度の判断で国会での議論を促していることを踏まえても、喫緊の課題といって差し支えない。1996年(平成8年)に法制審議会が「民法の一部を改正する法律案要綱」において、選択的夫婦別姓制度の導入を答申して以降、四半世紀が経過しているのであり、これ以上の議論の先延ばしは許されない。 - 当会は,2016年3月28日付けで「夫婦同氏の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所大法廷を受けて民法における差別的規定の改正を求める会長声明」を発出しているところであるが、改めて国に対し、国会において速やかに議論を尽くしたうえで、民法750条を改正し、選択的夫婦別姓制度を導入することを強く求める。
以上
2022(令和4)年2月18日
富山県弁護士会 会長 足 立 政 孝