決議文・意見書・会長声明

重要土地等調査規制法の廃止を求める会長声明

2021.11.29

  1.  「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」(いわゆる重要土地等調査規制法。以下「本法律」という。)は、本年6月1日の衆議院本会議及び本年6月16日の参議院本会議で可決され、成立した。
     本法律では、内閣総理大臣は、閣議決定した基本方針に基づき、自衛隊や米軍の基地などの防衛関係施設、海上保安庁施設などの「重要施設」の周囲おおむね1000メートルや国境離島等の区域内に「注視区域」や「特別注視区域」を指定することができ(第4条、第5条、第12条)、その区域内にある土地及び建物(以下「土地等」という。)の利用に関し、調査や規制をすることができることとなっている。
  2.  しかしながら、本法律には、次のとおり重大な問題がある。
    1.  第1に、本法律における「重要施設」の中には、自衛隊等の施設以外に「国民生活に関連を有する施設であって、その機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるもの」(生活関連施設)も含まれている。この生活関連施設の要件自体が曖昧であって、政府の恣意的な解釈により過度に広範な指定がなされるおそれがある。
    2.  第2に、本法律では、地方公共団体の長等に対し、注視区域内の土地等の利用者等に関する情報の提供を求めることができるとされているが、その範囲もまた政令に委ねられている(第7条)。そのため、政府は、土地等の利用者等の思想信条や表現行為に関わる情報も含めて、広範な個人情報を、本人の知らないうちに取得することが可能となり、土地等の利用者等の思想・良心の自由、プライバシー権が侵害されるおそれがある。
    3.  第3に、本法律では、注視区域内の土地等の利用者等に対して、当該土地等の利用に関し報告又は資料の提出を求めることができ、それを拒否した場合には、罰金を科すことができるとされている(第8条、第27条)。そこでは、求められる報告又は資料に関して何の制限もないことから、思想・良心を探知されるおそれのある事項も含まれ得る。政府がこのような広範な情報について、刑罰の威嚇の下に報告又は資料提出義務を課すことは、前同様に土地等の利用者等の思想・良心の自由、プライバシー権が侵害されるおそれがあるだけでなく、基地問題や原発問題等に関する市民活動の萎縮をもたらし、土地等の利用者等の表現の自由が侵害されるおそれがある。
    4.  第4に、本法律では、注視区域内の土地等の利用者が自らの土地等を重要施設等の「機能を阻害する行為」に供し又は供する明らかなおそれがあると認めるときに、内閣総理大臣は、勧告及び命令により、当該土地等の利用を制限することができ、正当な理由がなく命令に従わない場合には刑罰を科すことができるとされている(第9条、第25条)。しかし、「機能を阻害する行為」や「供する明らかなおそれ」というような曖昧な要件の下で土地等の利用を制限することは、土地等の利用者の財産権との関係で問題がある。
  3.  以上のとおり、本法律は、憲法が保障する思想・良心の自由、表現の自由、プライバシー権、財産権などの人権を侵害し、個人の尊厳を脅かす危険性を有するとともに、曖昧な要件の下で刑罰を科すことから罪刑法定主義に反するおそれがあるものである。
     なお、本法律は、自衛隊や米軍基地等の周辺の土地を外国資本が取得してその機能を阻害すること等の防止を目的とするものとされている。しかし、そのような土地取得等により重要施設の機能が阻害された事実がこれまでにないことは政府も認めているのであって、そもそも本法律の立法事実の存在それ自体に疑義がある。
  4.  よって、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする当会は、わが国における法の支配を確保するため、不明確な文言や政令への広範な委任により基本的人権を侵害するおそれが極めて大きい本法律について、その廃止を求めるものである。

以 上

2021(令和3)年11月24日

富山県弁護士会 会 長 足 立 政 孝