決議文・意見書・会長声明
富山県警察による度重なる違法捜査に抗議し再発防止の徹底を求める会長声明
2021.11.17
1.富山県警察による違法逮捕の経緯
富山県警察は、2021(令和3)9月20日に富山県射水市内において発生したベトナム人(以下「被害者」という。)に対する殺人未遂、凶器準備集合(結集)被疑事件につき、今日までに被疑者14名を逮捕した。
富山県警察の捜査官は、被疑者Aについては本年9月21日午前1時まで取調べを行った後から同日午後9時10分に至るまで、被疑者Bについては同月20日午後11時から同月21日午後11時25分に至るまで、被疑者Cについては同月20日午後9時頃まで取調べを行った後から同月21日午前9時頃に至るまで、被疑者Dについては同月20日午後8時50分頃まで取調べを行った後から同月21日午前9時頃に至るまで、それぞれ、同人らを射水警察署の取調べ室に令状なく留め置くとともに、警察官が同所で休憩したり就寝したりする同人らの動向を監視した。しかも、被疑者C及びDについては、一度帰宅させたものの、再度の任意同行をするまでの間も、警察官2名が同人らの自宅周辺に待機し、同人らが外出をする際には警察官が付き添うなどの監視を継続した(以下「本件捜査」という。)。
2.本件捜査は憲法33条等に違反する重大な違法であること
日本国憲法33条は、「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。」として、現行犯の場合を除き、裁判官が発付した令状なくして逮捕することを厳に禁じている(不法な逮捕からの自由、令状主義の原則)。その趣旨は、逮捕の必要性につき事前に公正な第三者の判断を仰ぐとともに、逮捕の理由を明らかにすることで、不法な身体拘束を防止することにある。刑事訴訟法は、捜査機関等が遵守すべき逮捕状発付の要件や逮捕の制限時間等を詳細に定めることで、憲法33条の上記の趣旨を具体化している。
捜査機関は、捜査の必要があるときは、被疑者に対して任意同行を求め、同人の取調べをすることができるが(刑事訴訟法198条1項)、被疑者が形式的に承諾さえすれば、「任意」の名の下にいかなる同行や取調べも許されるわけではない。被疑者の身体や行動の自由に対する制約が実質的に身体拘束にあたる程度のものと評価される場合には、もはや「任意」の同行・取調べとはいえず、実質的には逮捕と評価され、裁判所が発付する令状なくこれを行うことは、憲法33条及び刑事訴訟法に違反することとなる。
本件捜査は、いずれも被疑者らを警察署の取調べ室内に宿泊させるとともに、その後も同人らの監視を継続していたものであるから、「任意」のものといえず、実質的な逮捕である。これを令状なく行うことは、憲法33条及び刑事訴訟法に違反し、令状主義の精神を没却する重大な違法捜査であり、人権侵害行為である。
3.抗議及び要請
当会は、2020(令和2)年6月9日に「富山県警察による違法捜査に抗議し再発防止を求める会長声明」において、同年5月に行われた富山県警察による令状によらない違法な逮捕につき、富山県警察及び富山地方検察庁に対し厳重に抗議をするとともに、今後、二度と違法な捜査が行われないよう再発防止に努め違法捜査を根絶するよう強く要請した。しかしながら、本件捜査は、昨年5月に行われた上記捜査と同じく、憲法及び刑事訴訟法が定める令状主義の原則等の厳格な制限を無視し、被疑者の人権を侵害する違法行為であり、到底許容することができない。
被疑者の身体を違法に拘束する捜査手法に対しては、これまで数多の裁判例において警鐘が鳴らされてきたところであるが、当会が昨年に今回と同様の会長声明を発出していたにもかかわらず、富山県警察の捜査官が、なおもこのような捜査を行ったことに驚きと憤りを禁じ得ない。
当会は、富山県警察及び警察捜査を指揮すべき富山地方検察庁に対し、今回行われた違法捜査に厳重に抗議するとともに、裁判所が認定した本件捜査の内容が、令状主義の精神を没却し違法であることを厳粛に受け止め、関係者に対する厳正な調査を行った上で事実を糾明し、厳正な処分を行うことを求める。そして、今後、二度と違法な捜査が行われないよう、捜査に関する法令及び裁判例の教育を徹底するなどして捜査官一人ひとりに憲法及び法律に基づいて自らに権力が授権されていることの自覚を促し、再発防止に努め違法捜査を根絶するよう強く要請する。
なお、富山地方裁判所は、被疑者AないしDの各被疑者の勾留決定に対する準抗告につき、上記のような富山県警察による令状主義に関する諸規定を潜脱しようとした意図を認定せず、すべてを棄却した。このような判断は、富山県警察による将来の違法捜査を助長することにつながりかねず、誠に遺憾である。
以 上
2021(令和3)年11月16日
富山県弁護士会 会 長 足 立 政 孝