決議文・意見書・会長声明

特定秘密保護法案に対する会長声明

2013.10.30

政府は去る10月25日、特定秘密保護法案を閣議決定し、これを開会中の臨時国会に提出した。しかし、本法案は、国民主権、基本的人権の尊重という日本国憲法の基本原理に逆行し、国民の権利自由を不当に制約する悪法であり、当会は、本法案の成立に強く反対する。

本法案は、「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿をすることが必要であるもの」を「特定秘密」とし、行政機関の長が、①防衛、②外交、③特定有害活動防止、④テロリズム防止の4分野で「特定秘密」を指定することとし、これを漏らした者に重罰を科すものとなっているが、保護対象となる「特定秘密」の範囲が広範かつ不明確であり、行政機関の長の恣意的な判断で「特定秘密」の指定がなされ、本来国民に開示されるべき情報が統制・隠ぺいされる危険性が大きい。

そのうえ、「特定秘密」指定の5年間の有効期間を更新することができ、これを繰り返せば指定が恒久化されるばかりか、内閣の承認で30年を超えてなお公開しないことができることになっている。

処罰範囲も、過失による漏えい行為のほか、漏えい行為の未遂や共謀、独立教唆及び煽動、ならびに「特定秘密」の取得行為とその共謀、教唆、煽動を処罰対象とする点で極めて広範であって、刑罰の萎縮的効果にかんがみれば、報道や取材の自由、国民の知る権利を侵害するおそれが顕著である。

なお、本法案の国会上程にあたり、「国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない」、「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする」との条項が付け加えられたが、前者は単なる訓示規定にすぎず、また後者の条項によっても萎縮的効果は何ら払拭されないし、この条項は一般市民や市民ジャーナリスト等には適用されない。

また、本法案は、適性評価を経た者に「特定秘密」の取扱いをさせることにしているが、この適性評価制度では、通常他人に知られたくない個人情報も調査対象となり、プライバシーや思想・信条の自由等の侵害の危険性が大きい。

さらに、行政機関から国会に提供された「特定秘密」に関しては、国会議員も処罰対象に含まれるため、政策論議や国民との意見交換も封じられることになり、行政府を監視すべき国会の機能が著しく阻害され、議会制民主主義を否定するものといわざるをえない。

このように本法案は国民の知る権利などの基本的人権および国民主権原理に深刻な影響を及ぼすおそれがあるものであるから、本法案を必要とする具体的事情(立法事実)の存在が必要不可欠であるところ、政府が例示する過去の情報漏えい事案については再発防止のために必要な対策が既にとられており、罰則強化や人的管理を内容とする本法案の新たな立法の必要性を基礎づける具体的事情は見出せない。

よって、当会は、本法案の成立に強く反対するものである。

2013(平成25)年10月30日

富山県弁護士会   会 長   藤 井 輝 明