決議文・意見書・会長声明
いわゆる「谷間世代」の貸与金返還期限の猶予を求める会長声明
2018.03.30
2017年4月19日、司法修習生に対して修習給付金を支給すること等を内容とする裁判所法の一部改正に関する法律が成立し、同年11月1日から施行された。これを受けて、同月から司法修習を開始した第71期司法修習生に対する修習給付金の支給が始まっている。
この修習給付金の制度は、あくまでも「近年の法曹養成制度をめぐる状況の変化に鑑み、法曹となる人材の確保の推進等を図る」目的で制定されたとの建前により、2011年11月から2016年11月までに司法修習生に採用され、既に司法修習費用の貸与制の下で司法修習を終えた新第65期から第70期の者を適用対象としていない。このため、従来の給費制に基づく司法修習費用も、新たな修習給付金も受け取れない、いわゆる「谷間世代」という新たな問題が生じることとなった。
そもそも司法制度は、三権の一翼として、法の支配を社会の隅々まで行き渡らせ、市民の権利を実現するための、社会に不可欠な基盤であり、法曹はその司法を担う重要な役割を負っている。「谷間世代」の司法修習も、このような重要な役割を担う法曹を養成するために、国が司法修習生に修習専念義務という厳しい制約を課したうえで実施したものであり、従来の給費制の時代や、修習給付金の支給がなされるようになった現在と比較して、その内容は何ら異なるものではない。それにもかかわらず、司法修習を受けた時期が異なるだけで、「谷間世代」のみが何らの給付金も受けられないという不利益を被っていることは、著しく不公平な事態である。しかも、司法修習生に対して司法修習費用の給付を行わないという政策は、わずか6年で改めざるを得なくなったのであり、そのような政策による不利益を、たまたまその間に司法修習を経験した「谷間世代」だけに押し付けるべきではない。
当会の2017年4月20日付「修習給付金を支給する制度を創設する裁判所法改正についての会長声明」において指摘したとおり、近年、「谷間世代」を含む弁護士の所得が著しく低下しており、大学や法科大学院の学費のための奨学金返済の負担があることなどから、「谷間世代」の中には、貸与金の返済が困難な者が一定数存在する。それだけではなく、貸与金の返済が不可能とまではいえない「谷間世代」についても、その多くは、社会に貢献する活動を行いたいと願いながらも、経済的余裕がなく、自らの生活を安定させることを優先せざるを得ない状況にある。この「谷間世代」が、全国の弁護士総数約4万人のうち約1万1000人をも占めることを考えると、このように経済的理由により社会貢献活動が制約されることによる影響は、決して無視できるものではない。
したがって、貸与制のもとで司法修習を終了した新第65期から第70期の司法修習終了者に対して、少なくとも今回の法改正により創設される修習給付金と同等の経済的支援がなされるよう、さらなる法改正等の対応が必要である。しかし、現状では、何らの抜本的な救済策も示されないまま、新第65期司法修習終了者の初回の貸与金返還期限が本年7月25日に迫っている。
そこで、当会は、政府に対して、まずは緊急の策として、「谷間世代」の貸与金返還について、一律に返還期限を猶予する措置を執るよう求める。
2018(平成30)年3月22日
富山県弁護士会 会長 山 口 敏 彦