決議文・意見書・会長声明
平成29年司法試験結果に対する会長声明
2017.11.24
第1 声明の趣旨
- 当会は,平成29年司法試験合格者数の決定にあたり「1500人程度」という政策上の人数確保ありきで「質の確保」という大前提が遵守されなかったのではないかとの疑義を表明する。
- 当会は,政府に対し,法曹の魅力を取り戻し,法曹の質を確保するため,司法試験合格者数について直ちに見直し,年間合格者数を1000人以下とするように求める。
第2 声明の理由
- 本年9月12日,平成29年司法試験結果が発表された。本年の受験者数は5967人と昨年の6899人より932人減少し,また,本年の合格者数は1543人と昨年の1583人から40人減少した。
昨年より受験者数が大幅に減少したにもかかわらず,合格者数はほぼ昨年並みとされた結果,受験者全体に占める合格者の割合は昨年の22.9%に対し,本年は25.9%と上昇した。
ところで,2015(平成27)年6月30日の法曹養成制度改革推進会議では,司法試験合格者について,当面「1500人程度」は輩出されるよう必要な取組を進めるとされた一方,輩出される法曹の「質の確保」が大前提とされていたところ,受験者数が大幅に減少したにもかかわらず合格者数は微減に止まったというアンバランスな結果は,本年の合格者数決定にあたり「1500人程度」という政策上の人数確保ありきで法曹の「質の確保」という大前提が遵守されなかったのではないかとの疑義を生じさせるものである。当会は同年2月の総会で司法試験合格者数を年間1000人以下にすることを求める決議をしているが,これに反する大量の合格者数は勿論のこと,このような受験者が大幅に減少した中での合格率上昇は,司法試験の選抜機能を損なわせ,法曹の質の低下を招く危険性が高く,極めて遺憾である。 - 一方,2007(平成19)年から2013(平成25)年まで毎年2000人を超える司法試験合格者を輩出し続けた結果,司法修習を終了したものの12月の一括登録時点で弁護士登録せず,裁判官,検察官にもなっていない者(以下,「未登録者」という。)が急増し,その数は,2011(平成23)年から昨年まで毎年400人以上にも上っている。そして,昨年の司法修習終了者に占める未登録者の割合は25.8%という状況である。
また,法曹需要の増加が進まないため,新人弁護士の給与水準の低下,固定給のない採用形態(ノキ弁)や司法修習終了後の即時独立(即独)が増加するなど,新人弁護士の苦境が報道されるようになって久しい。各種統計上,弁護士全体の収入も大幅な減少傾向にあり,問題は新人のみに留まらない。
このような状況のなか,法科大学院適性試験受験者が,2011(平成23)年7249人,2012(平成24)年5967人,2013(平成25)年4945人,2014(平成26)年4091人,2015(平成27)年3621人,2016(平成28)年3286人,本年3086人と減少の一途を辿り,適性試験が開始された2003(平成15)年に比べ10分の1以下にまで激減しているように,有為な人材が法曹界を敬遠する傾向に歯止めがきかなくなっている。優れた人材が供給されなければ,将来的な弁護士の質の低下は必至である。
さらに,弁護士は基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命としている(弁護士法第1条)が,行き過ぎた弁護士増加は,その使命を果たすための前提となる弁護士活動の基盤と弁護士自治を破壊する。これにより最終的に不利益を被るのは国民である。
このような数々の悪影響は,司法制度改革による急激かつ大幅な合格者増員政策に起因するものであり,既に弁護士過剰となっている現状において,早急かつ大幅な司法試験合格者の減少が不可欠である。よって,引き続き当会は政府に対し,司法試験合格者数を1000人以下とするよう求める。
2017(平成29)年11月22日
富山県弁護士会 会長 山 口 敏 彦