決議文・意見書・会長声明

地方消費者行政の一層の強化を求める会長声明

2017.09.22

近年、全国の消費生活センターに寄せられる消費者被害等に関する相談件数は毎年90万件前後と高水準で推移している。しかも、高齢者についてのこの10年間の相談件数の推移を見ると、年齢が高い層ほど増加傾向が強く、判断力が低下した高齢者を狙った悪質商法や詐欺商法による被害が深刻さを増している。しかし、実際に消費者被害に遭った人の中で消費生活センター等の行政の相談窓口に相談・申出をした人はわずか7.0%にとどまる(消費者庁「平成28年版消費者白書」98頁)。年間90万件に上る相談件数はあくまでも氷山の一角に過ぎない。また、消費者庁の推計によれば、潜在的な被害を含む消費者被害の合計額は、2015年(平成27年)は約6.1兆円に上る(同白書135頁)。

このように消費者被害の実態が深刻さを増す中で、被害の発生を未然に防止し、また事後的に救済するために、地方消費者行政の一層の充実が求められている。とりわけ、地方消費者行政の体制を維持していく上で財政基盤を確保することが極めて重要であるところ、現在の地方消費者行政の財政基盤は、地方消費者行政推進交付金等の国の支援により支えられている。しかし、同交付金の適用対象は2017年度(平成29年度)までの新規事業に限定されており、このままでは地方消費者行政の体制確保が後退するおそれがある。

また、現在、地方公共団体が担っている消費者被害の防止・救済に関する事務の中で、消費生活情報のPIO—NETへの登録事務や違反業者への行政処分事務、消費者安全法に基づく重大事故情報の通知事務、適格消費者団体への支援事務等については、日本国内の消費者被害情報を集約し、広域的被害を防止するという意味合いを持つ。これらの事務は国と地方公共団体相互に利害関係がある事務であり、消費者被害防止・救済のために全国的な水準を向上させる必要性が大きいため、国が恒久的に財政負担を負うべきである。

さらに、今後の地方消費者行政の役割として、他部署・他機関との連携による高齢者見守りネットワークの構築や官民連携によるきめ細やかな消費者啓発・見守りの実施が重要である。また、違法な事業活動に対する法執行件数が減少しており、商品事故に関する原因究明や商品テスト担当職員が減少しているのも現状である。そのため担当職員の人員増加及び専門的資質の向上に向けて、国民生活センターによる研修実施や教材提供を一層拡充するなど、具体的な政策を検討すべきである。

そこで、当会は、消費者行政の体制整備を一層推進し、消費者被害の発生の防止を図るため、国に対し、以下の施策をとるよう求める。

1 地方消費者行政推進のための交付金の継続

国は、地方公共団体の消費者行政の体制・機能強化を推進するための特定財源である「地方消費者行政推進交付金」の実施要領について、2017年度(平成29年度)までの新規事業に適用対象を限定している点を、2018年度(平成30年度)以降の新規事業を適用対象に含めるよう改正するとともに、消費者行政の相談体制、啓発教育体制、執行体制等の基盤拡充に関する事業を適用対象に含めるよう改正し、同交付金を少なくとも今後10年程度は継続すべきである。

2 国の事務の性質を有する消費者行政費用に対する恒久的財政負担

国は、地方公共団体が実施する消費者行政機能のうち、消費生活相談情報の登録事務、重大事故情報の通知事務、違反業者への行政処分事務、適格消費者団体の活動支援事務など、国と地方公共団体相互の利害に関係する事務に関する予算の相当部分について、地方財政法第10条を改正して国が恒久的に財政負担する事務として位置付けるべきである。

3 地方消費者行政職員の増員と資質向上

国は、地方消費者行政における法執行、啓発・地域連携等の企画立案、他部署・他機関との連絡調整、商品テスト等の事務を担当する職員の配置人数の増加及び専門的資質の向上に向け、実効性ある施策を講ずべきである。

以 上

2017(平成29)年9月20日
富山県弁護士会 会長 山 口 敏 彦