決議文・意見書・会長声明

民法の成年年齢引下げに反対する会長声明

2017.08.29

  1.  当会は、若年者への消費者被害の拡大を防止する観点から、現時点での民法の成年年齢引下げに反対する。
  2.  選挙年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げる公職選挙法の一部を改正する法律が2016年6月19日に施行された。これを受けて、政府は、現在、民法の成年年齢を20歳から18歳へ引き下げることを議論している。
     しかし、民法の成年年齢を20歳から18歳へ引き下げることには多くの問題がある。
  3.  そのうちの大きな問題の一つは、18歳、19歳の若年者が、未成年者取消権を失うことにより、若年者への消費者被害が増加する可能性が高いことである。
     若年者は、社会経験が不十分なことや被害にあったときの対応能力を十分に備えていないことから、様々な消費者被害に巻き込まれやすい。加えて、18歳、19歳という年齢は、就職、進学、転居等の人生における大きな節目を迎え、直接悪質業者の勧誘に曝され、高額の支払いを伴う契約を締結させられる機会が一気に増える時期である。
     そこで、民法は、未成年者が単独で行った法律行為は未成年者であることのみを理由に取り消すことができるよう定め、未成年者の保護を図ってきた(民法第5条第2項)。
     そして、未成年者取消権は、未成年者に違法もしくは不当な契約締結を勧誘しようとする悪質な事業者に対する大きな抑止力となってきた。このことは、未成年者取消権を失う20歳から消費者被害の相談件数が急増すると国民生活センターが報告していることから明らかである。
     したがって、18歳、19歳の若年者が未成年者取消権を失えば、消費者被害に巻き込まれる可能性が高まることは確実であって、民法の成年年齢引下げは若年者への消費者被害の増加につながる大きな危険を有している。
  4.  また、若年者に対する消費者被害増加を防止するためには、若年者または消費者全般を保護するための法改正や、より一層の消費者教育の拡充が重要である。
     しかし、我が国では、そのような施策の実施は現時点では十分であるとはいえず、そもそも、若年者の消費者被害の実態に対する理解も十分とはいえない。
     成年年齢を引き下げる前に、こうした若年者への消費者被害拡大を防止し、若年者が安心して社会に出られるように施策が十分に準備されている必要がある。
     そして、そのような施策が十分なものといえるかについて、国民全体で検討し、議論を重ねた上で、成年年齢引下げの是非を判断していくべきである。
  5.  当会は、民法の成年年齢の引下げについては、若年者への消費者被害拡大を防止するための十分な施策の準備と、時間をかけた国民的議論を経た上で決定していく必要があると考える。
     よって、これらが実現していない現時点において、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることには反対する。

以 上

2017(平成29)年8月28日
富山県弁護士会 会長 山 口 敏 彦