北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』
財産を譲りたい相手が先に亡くなったら?
2025.10.23
北日本新聞掲載 2025年10月11日
執筆者:太田 悠史 弁護士
私には、相続の際に不動産を譲ってあげたいと考えているAさんがいます。その人は私の法定相続人ではありません。そのためAさんに不動産を譲る内容の遺言を作ろうと思っているのですが、もしAさんが私よりも先に亡くなった場合には遺言の効果はどうなるのでしょうか。
遺言によって遺産の全部または一部を譲ることを「遺贈」と言います。民法は「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない」と定めています。このため遺贈を受ける人「受遺者」が、遺言者の死亡以前に亡くなっていた場合、無効になります。定めにある「以前」には、同時に死亡した場合が含まれています。
この場合、遺言全体が無効になるわけではなく、受遺者に与えるはずだった部分のみが無効となるものであり、それ以外の部分については効力を有します。
気を付けなければならないのは、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡していた場合、「受遺者の法定相続人」が相続するわけではないということです。そのため無効となった部分は、民法が定める原則に立ち戻り、遺言がない場合として、相続人全員による遺産分割の手続きが必要となります。遺言を作成していたのに、結局は遺産分割が必要となってしまうということです。
このような事態を回避するために、遺言の中に予備的条項を定めておくことができます。具体的には例えば「遺言者は、Aに遺言者の所有する下記不動産を遺贈する」という条項の後に、「Aが遺言者より先又は同時に死亡した場合は、前項の不動産をBに遺贈する」などといったように、二次的な承継先を決めておくことができます。もし二次的に財産を譲りたいと考えている相手がいる場合には、このような予備的条項を遺言に定めることをご検討ください。
なお受遺者の方が法定相続人である場合には、「遺贈する」ではなく「相続させる」と記載することによって法的な効果が異なってくることがあります。ご懸念や不明な点がある場合には、ぜひ法律の専門家である弁護士にご相談ください。