北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』

営業秘密の漏えい防ぐには?-ルール整備 心理的に抑止

2023.06.10

北日本新聞掲載 2023年6月10日

執筆者:弁護士 植木 亮

近年、営業秘密の漏えいが問題になった事例が増えているようで、私が経営している会社でもトラブルが発生しないか心配です。どんな対策を取ったらよいでしょうか。

警察庁の統計によると、営業秘密侵害事犯の検挙事件数は、2013年には5件でしたが、22年には29件に増加しています。営業秘密の漏えいが表面化した事例は氷山の一角に過ぎないと言われており、実際の発生件数は相当な数になると考えられます。

顧客情報、取引価格、技術ノウハウといった情報資産は、企業の競争力の源泉となる大切な経営資源です。不正競争防止法は、こうした情報のうち一定の要件を満たすものを「営業秘密」として保護しており、これを侵害する行為は刑罰の対象にもなります。

しかし営業秘密は、秘密であってこそ価値があるものですから、いったん漏えいしてしまうとその価値が大きく損なわれます。損害賠償金の支払いを受けたり、漏えいに関与した人が検挙されたりしたとしても、損なわれた情報資産の価値が回復されるわけではありません。いかにして営業秘密の漏えいを事前に防止するかが、大変重要な経営課題になります。

営業秘密の漏えいルートには自社関係者、取引先、共同研究先などさまざまなものがありますが、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が2020年に行った調査では、自社関係者(現職の役員・社員および退職者)による漏えいが最も多くなっています。

こうした自社関係者による漏えいリスクへの処方箋として、まずは①秘密情報へのアクセスを制限し、外部への持ち出しを困難にするといった技術的・物理的な防止策が挙げられます。また②秘密情報の取り扱いについて定めた就業規則や社内規程、入社時の秘密保持契約書、退職時の秘密保持誓約書などの法的文書を整備・締結し、自社の秘密情報に関するルールを明確にしておくことで、漏えいを心理的に抑止することができます。

そして①や②の対策を実効性のあるものにするためには、社内研修などを通じて、秘密保持に対する認識向上、社内ルールの周知徹底を図ることも重要です。

営業秘密の漏えい防止策は、地道な取り組みを着実に実施していくことが肝要である一方で、成果が見えにくく、継続が難しい面もあります。弁護士など社外の支援者のサポートも得ながら一歩一歩進めていきましょう。