北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』
交通事故の示談案 納得できない-裁判以外の解決法も
2022.01.08
北日本新聞掲載 2022年1月8日
執筆者:本田隆慎弁護士
交通事故に遭い、相手方の保険会社から示談の提案を受けました。思っていたよりも私の過失割合が大きく、慰謝料の金額も低いため、提案に納得できません。 法律上適正な金額を支払ってもらうには裁判をするしかないのでしょうか。
交通事故の被害について適正金額の賠償を得るためには、訴訟を起こすほかに、交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターといったADR(裁判外紛争解決)機関に申し立てるという方法もあります。ADR機関は、裁判官の代わりに中立公正な立場の弁護士が間に立っている、民間の裁判所のようなところです。
被害者から申し立てを受けたADR機関の担当弁護士は、事故の双方の当事者(又は当事者が入っていた損保会社・自動車共済の担当者)の話を聞き、双方の提出する主張書面や証拠を見た上で、法律、裁判例や賠償実務に照らし賠償金額を算定した「あっせん案」を示します。双方があっせん案を承諾すれば、その内容で和解が成立し、損保会社・自動車共済から被害者に和解金が支払われます。
和解が成立しなかった場合、相手方の損保会社・自動車共済がADR機関と協定を締結しているところであれば「審査」を求めることができます。審査では、あっせん段階とは別の複数の弁護士が、双方の言い分や書面を確認した上で「裁定」を下します。損保会社・自動車共済は裁定を「尊重する」ことになっており、事実上、裁定結果に従います。一方で被害者は、裁定結果に拘束されませんので、裁定の内容で和解せずに一から訴訟をすることもできます。
訴訟と比べた場合、ADR機関には次のようなメリットがあります。①申立手続きが訴訟より簡単②申立費用が無料(訴訟の場合、請求金額に応じた収入印紙を裁判所に納付する)③解決までにかかる時間が3~6カ月程度と比較的短い(訴訟では1年以上かかることもある)。
申し立ては被害者自身が行うこともできますが、弁護士にADR機関への出頭や書面の作成などを任せることもできます。弁護士費用保険が使用できる場合は、被害者の負担なしに依頼できることも多いです。いずれにせよ、事故の被害に遭われ、相手方損保からの示談提案が納得いかない、という方は、一度弁護士に相談することをお勧めします。