北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』
事故による後遺症の補償は-定期的に受け取る方法も
2021.08.14
北日本新聞掲載 2021年8月14日
執筆者:足立政孝弁護士
小学生の長男が交通事故に遭い、大変重い後遺症が残りました。将来必要となる介護費用や、後遺症がなければ得られたはずの収入の補償はどうなりますか
事故などで重い後遺症を負った人の将来の介護費用は、1日に発生する額を算出した上で、年額を計算し、その人が何歳まで生きるか想定した年数を掛けて計算します。その際、年数に応じた割引率の係数を掛けて計算することになります。なぜならば、将来必要となる賠償額を一度に受け取ることになるため、資金の運用金利を見込んだ額を割り引く必要があるのです。
また、後遺症がなければ将来得られたはずの収入(逸失利益)の賠償については、 収入額に後遺障害の程度に応じた「労働能力喪失率」を掛け、労働能力を失った期間に応じた割引率の係数を掛けて計算することになります。
これらの係数の基準となる割引率は事故発生時の法定利率とされており、現時点では年3%となっています。
以上の計算方法は、 介護者の人件費や介護に必要な物品費、被害者の賃金がこれからも変わらないことが前提です。また、前払いされた賠償金が、毎年一定の率で利息を発生させることも前提にしています。
しかし、将来高騰するかもしれない人件費や物価のことを考えれば、一定の条件で計算された賠償金額で長期間にわたる介護費用を本当にまかなえるか、不安は残ります。
そこで、今回のご質問のような事案の介護費について、損害賠償金を一定期間にわたって定期的に支払う方法、いわゆる定期金による賠償が、これまでの裁判例で認められてきました。
一方、逸失利益は一時金による賠償が原則でした。しかし、賃金水準も社会情勢が変われば大幅に上昇する可能性があります。そのため、2020年の最高裁判決で、今回のように交通事故の被害者が逸失利益を定期金で支払うよう求めたのに対し、実態に即した賠償を実現させるため、定期金賠償が認められました。