北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』
遺産分割前に預金は使えないの? 一部なら払い戻し可能
2019.12.14
北日本新聞掲載 2019年12月14日
執筆者:浦田秀幸弁護士
今年8月に亡くなった夫の遺産に多少の預金があります。しかし、死亡後間もなく預金口座が凍結されて引き出せなくなってしまいました。夫には先妻の子がいますが、遺産分割協議が早く調う見込みはありません。私の収入は少なく、夫の遺産を生活費に充てたいのですが、何か良い方法はないでしょうか。
預貯金の名義人が亡くなると、口座は凍結され、たとえ身内の方であっても相続手続きが完了するまで払い戻しを受けることはできません。しかし、それでは葬儀費用の支払いができなくなったり、同居されていた方の日々の生活に影響が出たりしてします。
そこで、今年7月1日から法律が改正され、遺産分割協議が成立する前であっても預貯金の一部の払い戻しを受けられるようになりました。
払い戻しを受けられる金額は、相続分の3分の1までです。今回のケースでは、相談者の相続分は2分の1なので、その3分の1、つまり預貯金の6分の1までは、遺産分割協議が成立する前であっても払い戻しを受けられます。ただし、1金融機関ごとの上限は150万円です。払い戻しを受ける際には、亡くなられた方の出生から死亡までの戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本、払い戻しを受ける方の印鑑証明書などの書類が必要になります。
他にも、家庭裁判所で手続きを取ることによって、遺産分割協議が成立する前に預貯金の払い戻しを受けることができます。家庭裁判所の許可があれば、相続分の3分の1以上の払い戻しを受けられますが、遺産分割協議が成立する前に預貯金の払い戻しを受ける必要性や、他の相続人の利益を損なう恐れはないか、などが審査されます。
今回紹介した手続きで払い戻しを受けた預貯金は、遺産の分割として受け取ったものとみなされ、遺産分割協議の際に調整されます。従って、これらの手続きを取ったからといって、最終的に受け取れる遺産が増えるわけではありません。また、預貯金以外に自宅などの不動産が遺産にあり、その不動産を取得することによって相続分以上の遺産を受け取る場合は、他の相続人に預貯金を返さなければならない可能性もありますので注意が必要です。
相続に関する手続きは複雑で、必要な書類がたくさんあります。大変な思いをされているという方は、一度お近くの弁護士に相談されてはいかがでしょうか。