北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』

水増し請求で解雇 無効訴え提訴―悪質性高く処分有効

2020.01.11

北日本新聞掲載 2020年1月11日

執筆者:今村 元弁護士

会社の従業員が営業経費を水増し請求し、10万円を不正に受け取りました。社内で賞罰委員会を開き、懲戒解雇としましたが、その従業員は処分が重すぎて無効だとして、雇用契約上の地位の確認と解雇日以降の賃金の支払いを求めて訴訟を起こしました。裁判はどうなるでしょうか。

懲戒処分の根拠規定が就業規則にあり、従業員に弁明の機会を与えたことを前提に回答します。根拠規定がなかったり、弁明の機会を与えていなかったりすると、懲戒処分が無効となる可能性があるからです。

本題に入ります。営業上で発生した経費を社員が立て替えることがあります。その場合、立て替え金の精算が行われます。

今回のケースでは、従業員が提出した領収書は、実際に立て替えた金額より10万円多く書き換えられていたことになり、不正な経費精算とみなされます。これは会社に損害を与えるもので、刑法上は詐欺と評価されます。懲戒処分の対象となるのも当然です。また、このような行為は、会社の金銭の着服と同じように評価され、厳しい懲戒処分が相当とされることが多いです。故意に行われているわけですから、悪質性が相当高く、懲戒解雇は有効と判断される可能性が高いと思われます。

裁判例を調べると、1998年1月28日の大阪地裁判決は、領収書の数字の1を2に書き換えて水増し請求した事案について懲戒解雇を有効としています。一方で、2010年5月14日の大阪地裁判決では、実際には支払っていない部活動の合宿費の領収書を発行させてPTAから補助金を詐取した事案で、懲戒解雇は無効とされています。この事案ではだまし取ったお金は個人が着服したのではなく、部活の費用に充てていたという事情が考慮されて、懲戒解雇が重すぎると判断されました。

領収書を書き換えて会社から不正に支払いを受けると重い懲戒処分になるのが一般的ですが、事案(従業員の地位、行為内容、使途、過去の処分事例等)によっては微妙な結論になることもあります。従業員の不正が発覚し、懲戒処分を行う場合には、賞罰委員会で処分を決める前に弁護士に見通しも含めて相談された方がよいでしょう。