北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』
新型コロナによる解雇 有効?―無効となる可能性も
2020.06.13
北日本新聞掲載 2020年6月13日
執筆者:水谷敏彦弁護士
私は飲食店で店員として働いてきました。会社は新型コロナウイルスの影響で経営が苦しくなったので人件費を減らしたいと言って、先日私を解雇しました。会社が業績不振に陥ったことによる、この解雇は有効なのでしょうか。
事業主は従業員を自由に解雇することはできず、解雇するには正当な事由が必要です。そのことを、労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして、無効とする」と規定しています。これが大前提です。
事業不振を理由に従業員を解雇することを「整理解雇」と呼びますが,判例では、整理解雇が有効となるためには①人員整理の必要性②解雇を回避するための努力が尽くされたこと③解雇される者の選定基準と選定が合理的であること④事前の十分な説明・協議-の要件を満たす必要があるとされています。
まず、①では本当に業績が悪化したのか、回復が見込めないのか、などが問われます。③は賃金額が高い者から先に辞めてもらう、扶養家族の有無・人数で決めるといった基準があるか、その基準が合理的なもので適正に運用されたかという観点です。④は事業主が従業員に経営状況をきちんと示し、納得を求めることが必要です。
新型コロナを理由とする整理解雇では、②の解雇回避努力を尽くすことがとりわけ重要です。というのは、政府は現在「雇用調整助成金」制度の特例措置を設け、新型コロナによる影響を受けた事業主が、従業員に対し一時的に休業措置を取り、雇用の維持を図った場合に休業手当などの一部を助成することになっているからです。その他にも、売り上げが落ちている事業主が受給できる「持続化給付金」制度も用意されています。
事業主がこうした制度を利用して解雇を避けられなかったか、希望退職者の募集や賃金カットなどで雇用調整をする解雇回避の努力・検討がなされたか、などが考慮されます。従業員にとって解雇は生活の糧を奪われる最も厳しい不利益処分ですから、事業主には最大限の努力が求められるのです。
なお、事業主が店舗の閉鎖や会社解散を選択し、従業員全員を解雇する場合でも、やはり整理解雇の要件は必要です。職場そのものがなくなってしまうのですから、実際の問題としては事業の再開・維持を求めて事業主と粘り強く交渉する必要があります。そのためには、労働組合を結成するなどして従業員が結束しなければならないでしょう。
このように、新型コロナを理由にする解雇だからといって初めから諦める必要はありません。整理解雇が有効かどうかの判断は難しいので、弁護士に相談してみてください。