北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』

町内会で特定の候補を応援してもよい?-「強制」にならないよう注意

2020.12.12

北日本新聞掲載 2020年12月12日

執筆者:伊藤 建弁護士

私の住んでいる地域の町内会では選挙が近づくと、特定の候補者の個人演説会の手伝いをお願いされます。町内会で特定の候補者を応援してもよいのでしょうか。

会社がA党に政治献金をしていても、従業員にはB党員がいるなど、団体と所属する個人の政治的立場が異なることはよくありますから、直ちに違法とはなりません。

しかし、団体の活動が目的の範囲を超えたり、個人の思想・良心の自由を侵害したりする場合には違法となります。

最高裁は、政治献金をするかは選挙で誰に投票するかと同じだとして、法律で強制加入とされている団体や労働組合が所属する個人に政治献金のための資金負担を強制させることは違法と判断しましたが、株式会社がもうけたお金で政治献金をすることは適法と判断しました。

判断の分かれ目は、目的との関連性や強制の度合いにあります。

株式会社は、本来の事業以外にも、災害救援資金や地域への協賛金などを行うことも期待されています。また、株式会社がもうけたお金で政治献金をしても、従業員に資金負担を強制するものではありません。もうけの元手になっている資本金は株主が出資していますが、株主は嫌ならば株を売却することができます。

他方、強制加入団体や労働組合の場合、政治献金は会費で賄われますから、会員や組合員に直接の資金負担を強いることになります。

また、強制加入団体は当然辞められませんし、労働組合も実際には辞めにくいため、強制度が強いといえます。しかも、法律上の強制加入団体は、多くの場合、会員の義務の遵守などのために法律が設立を義務付けたものですから、政治献金をすることが社会的に期待されているわけでもありません。

もっとも、労働組合の場合、本来の目的である労働条件の改善などを達成するためには、使用者との交渉だけでなく、政治活動を行う必要もありますから、政治献金でない政党の支援や統一候補の決定は適法とされています。

町内会は、一定の区域に住所を有することのみを会員資格とするものですから、特定の政党を支持することや統一候補を決定することは、目的の範囲を超えるでしょう。

一方で、町内会としてではなく,会員が別の会員に個人演説会の手伝いを個人的に「お願い」することは許されます。ただし、協力しない会員に、市町村からの配布物を配布しない、ごみ集積所を利用させないなどの不利益な扱いをすることは許されません。