北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』
離婚した夫が養育費払わない-財産開示手続き利用して
2021.05.08
北日本新聞掲載 2021年5月8日
執筆者:南 果弁護士
数年前に離婚した夫が,調停で取り決めた養育費を支払ってくません。今では連絡もつかず,預貯金の預け先や勤務先も分かりません。養育費を受け取ることはできないのでしょうか。
せっかく養育費を公正証書や調停調書などで取り決めても,支払われなくなるケースが少なくありません。
このような場合,民事執行法に基づき,強制執行の手続きを取る必要があります。元配偶者の給与や預貯金を差し押さえるには,勤務先や預貯金の預け先金融機関を特定する必要があります。このため,元配偶者が転職したりわざと預貯金を移し替えたりすると,強制執行は非常に困難となり,養育費を断念せざるを得ないことがありました。
また,2003年に支払い義務者に対して財産の内容を開示させる財産開示手続きが創設されましたが,違反した場合の罰則が軽いことから実効性が低く,あまり活用されてきませんでした。
そこで,20年4月1日施行の改正民事執行法により, ①財産開示手続きを利用できる対象の拡大②第三者からの情報取得手続きの新設③財産隠しに対する罰則の強化-が図られました。
特にメリットがあるのは②です。市町村などに,元配偶者の勤務先や預貯金に関する情報提供を求めることが可能となりました。情報が得られれば,給与や預貯金の差し押さえという非常に有効な強制執行手続きをとることが期待できます。
これまで相手が裁判所の呼び出しに応じないなど手続き違反があった場合,30万円以下の過料という行政罰しかありませんでした。③によって6月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科されることになりました。今後は安易に呼び出しを無視したり,虚偽申告をしたりする人が減ると予想されます。
なお,離婚後にこれらの手続きを取るためには,執行認諾文言付公正証書を作成するなど準備が必要です。離婚を考えている方は,適切な金額や公正証書の作成方法など,弁護士に相談することをお勧めします。
法改正後も元配偶者が行方不明の場合は,残念ながら手続きを利用することはできませんが,このような場合でも,まずはあきらめずにご相談ください。