決議文・意見書・会長声明
労働時間規制の大幅緩和を内容とする「労働基準法等の一部を改正する法律案」の成立に強く反対し,その廃案を求める会長声明
2015.08.31
1 意見の趣旨
2015年4月3日,政府は,「労働基準法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)を閣議決定し,国会に提出した。
本法案は,特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設,企画業務型裁量労働制の対象業務の追加等により労働時間規制を大幅に緩和する内容となっている。
当会は,本法案の成立に強く反対し,その廃案を求める。
以下,主な理由を述べる。
2 意見の理由
⑴ 特定高度専門業務・成果型労働制の問題点
本法案は,特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)を創設している。この制度は,高度専門的知識を要する一定の業務において,年収が平均年収額の3倍を相当程度上回る等の要件を満たす労働者については,労働基準法第4章に定める労働時間,休日及び深夜の割増賃金等に関する規定を適用しないとするものである。
すなわち,使用者は,対象労働者にどれだけ長時間労働を行わせても,時間外労働に対する割増賃金を支払う必要がなくなるのである。これでは,長時間労働に対する歯止めがなくなり,長時間労働が常態化し,助長されることは明らかである。
⑵ 企画型裁量労働制の対象業務追加の問題点
本法案は,企画業務型裁量労働制の対象業務を拡大するとしている。
裁量労働制においても,具体的な労働量や期限は労働者自身ではなく使用者によって決定されるものであるため,現行法下でも,結局,労働者が長時間労働を強いられ,みなし労働時間と実労働時間が乖離しているという問題点が指摘されている。つまり,裁量労働制においては,労働者は,どれだけ長時間労働を強いられても,みなし労働時間に基づく賃金の請求しか出来ず,実労働時間に見合った賃金の請求が出来ないという弊害があるのである。このような問題点が指摘されている裁量労働制の対象業務を拡大すれば,長時間労働を強いられる労働者が増加することは必至である。
⑶ まとめ
上記のような問題等を有する本法案は,過労死対策の推進やワークライフバランス保持に向けた取り組み等無制約な長時間過重労働を抑止し,労働者の生命及び健康を守るという社会的な取り組みに真っ向から逆行するものであり,到底,容認できるものではない。
よって,意見の趣旨欄記載のとおり,当会は,本法案の成立に強く反対し,その廃案を求める。
2015(平成27)年8月26日
富山県弁護士会 会長 水谷 敏彦