決議文・意見書・会長声明

「国旗の損壊等の処罰に関する法律」の廃止を求める会長声明

2026.10.02

  1.  2026年7月17日、議員立法として「国旗の損壊等の処罰に関する法律」(以下「本法」という。)が成立し、同年8月13日に施行された。
     しかしながら、本法は、国民の思想・良心の自由(憲法第19条)及び表現の自由(憲法第21条第1項)を侵害するとともに、罪刑法定主義(憲法第31条)の観点からも、憲法上問題がある。
  2.  第1に、本法が「国旗損壊罪」を定める立法趣旨は、国旗を大切に思う国民感情を保護するものであると説明されている。確かに、国旗は国民の間に広く定着しており、これに愛着を感じる人も少なくない。しかし、国旗を大切に思う感情も、批判的感情も無関心も、まさに国民一人ひとりの内心の自由に属するものである。国旗を損壊する等の行為は、国旗に対する批判的感情に基づく外部的行為であるばかりでなく、国旗に対する批判的感情を外部に表明するメッセージと理解できるものであるから、思想・良心の自由及び表現の自由として保障される。
     本法は、一定の方法により、国旗を損壊する等の行為を禁止し、これに刑罰を科するものであるが、他人所有の国旗を壊す行為は器物損壊罪等に該当するうえ、公的行事や施設の運営を妨害する行為は威力業務妨害罪等に該当し得るほか、施設管理権等によっても対処することができるのであるから、結局のところ、自己所有の国旗を用いた国旗に対する批判的表現を禁止するものである。そうすると、本法は、国旗を大切に思う国民感情を保護するにとどまらず、国旗に対する批判的感情それ自体を禁止するに等しく、思想・良心の自由に対する侵害として許されない。
  3.  第2に、本法は、国旗の損壊等それ自体を処罰するものではなく、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」による損壊等のみを処罰の対象としているとおり、その行為が発するメッセージが受け手に伝達されたことを理由として、当該行為を処罰するものであるから、表現の内容に着目した規制である。表現内容規制が許されるためには、厳格な正当化根拠を必要とし、「国旗を大切に思う国民感情」の保護という目的では正当化され得ない。我が国には外国国章損壊罪(刑法第92条)が制定されているが、同罪は、外国との円滑な外交関係という具体的な国家的利益を保護するものであるから、本法と保護法益を異にする。また、我が国の憲法には、国旗に関する規定はなく、国旗を民主主義の基本秩序の象徴とするような定めもない。さらに、器物損壊罪や威力業務妨害罪等の既存の刑罰の適用によって対処し得なかった事態が生じたという立法事実は、国会の審議を通じても何ら示されていない。
  4.  第3に、本法では、第2条第1項で「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者」を処罰の対象とし、第2条第2項で「前項の方法に該当するかどうかの判断は、行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情を総合的に勘案して行うものとする。」とされている一方で、第3条で「この法律の適用に当たっては、表現の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」と規定している。これは、本法が表現の自由を侵害するおそれを有することを、立法者自身が認識していたことを示すものにほかならない。憲法第21条第1項が保障する表現の自由を規制する立法は、表現の自由に対する萎縮効果を排除する必要があるとともに、これが刑罰法規である場合には、憲法第31条の罪刑法定主義の要請により、国民の自由を保障するべく、その法文は明確でなければならない。
     しかしながら、「著しく不快又は嫌悪」という感情は人それぞれ異なり、そのような内心の感情を犯罪の構成要件に加えることは極めて抽象的かつ不明確である。また、「行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情を総合的に勘案して行う」とする点についても、その行為時の規範として不明確である。さらに、本法は、表現の自由を侵害するものであることを自覚しながらも、刑法第230条の2のように、表現の自由として保護される要件を何ら明確にしておらず、萎縮効果を排除できていない。
  5.  以上のとおり、本法が定める「国旗損壊罪」は、国旗に対する批判的感情やこれを外部に表明する表現行為を禁止するものであり、また、政治的な抗議活動や表現活動に対する萎縮効果をもたらすものであって、憲法第19条、第21条第1項及び第31条に違反するおそれが高いものといえる。
     したがって、当会は、本法の成立に強く抗議するとともに、国会に対し、速やかに本法を廃止するための立法措置を講ずることを求める。

2026(令和8)年9月25日
富山県弁護士会 会長 鍋 谷 博 志