北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』
退職後の就業制限
2025.05.26
北日本新聞掲載 2025年4月12日
執筆者:足立 政孝 弁護士
会社を辞めて、同じ職種の別会社に入りました。前の会社から「同業他社で働いてはいけない決まりとなっている」と言われ困っています。どうしたらよいでしょうか。
在職中または退職後の従業員が、使用者と競合する事業活動を差し控える義務を「競業避止義務」と言います。
まず在職中、労働者は明確な規定がなくても、労働契約では誠実義務・職務専念義務を負いますので、在職中の競業行為は、制限されることが一般的です。
一方、退職後は職業選択の自由が保障されていますので、競業避止義務を無制限に認めることはできません。従って退職にあたり、競業避止義務に関する規定もないのに、競業避止義務に関する誓約書へのサインを求められても、応じなければならない法律上の義務はありません。
次に就業規則などに競業避止義務の規定がある場合はどうでしょうか。
この場合も、多くの裁判例は、規定通りの効力を、そのまま認めるような判断はしていません。
大前提として、退職後の競業行為が、使用者に営業上の支障を生じさせるものとして、競業行為を制限する必要性が認められなくてはなりません。
その上で規定の有効性の判断は、いくつかの考慮要素を総合して判断されることになります。具体的には、規定がどの程度次の仕事を制限するのか、その程度や内容、従業員の前の会社における立場などが代表的な考慮要素とされています。
これらの要素を踏まえた上で、合理的な範囲でのみ競業禁止の効力が認められることになりますが、その判断は裁判例でも分かれています。
就職や退職にあたり、競業避止義務を定めた誓約書にサインを求められた場合、あるいは就業規則などに競業避止義務の定めがあることを理由に、退職金の支払いを拒絶されたり減額を主張されたりした場合や、その他判断に困ったときは、弁護士に相談することをお勧めします。