北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』

部活中 子どもが熱中症に-学校側 過失の有無焦点

2024.08.10

北日本新聞掲載 2024年8月10日

執筆者:弁護士 水谷 敏彦

息子が運動部の部活動中に熱中症になり病院に搬送されました。幸い軽症で済んだのですが、再発防止のためにも保護者としてできることはしたいと思うのですが…。

児童・生徒の保護者が、わが子が学び成長発達するよう教育の事務を学校(学校設置者たる地方公共団体や学校法人)に委託し、学校はこれを引き受ける-。

こうした考えから保護者と学校との基本的な法律関係は「委任・準委任」に類似した性質の契約関係だと今日では理解されています。

受託者の学校は、児童・生徒が心身ともに安全に学ぶことができる環境を整備し維持する義務(安全保持義務)を負っています。ご相談の事案では、息子さんが熱中症になったことについて学校にこの安全保持義務違反がなかったか問われます。

学校が普段から熱中症対策を徹底していたか、練習計画に無理がなかったか、生徒の体力・持久力に差異があるのに一律の練習を課していなかったか、部活動指導者が気象条件や冷却給水のタイミングを的確に判断していたかなど、学校に過失がなかったか問題になるでしょう。

こうした安全保持義務違反がないか問う場合にしばしばネックとなるのは、普段から学校がどうしていたか、あるいは事故当時に何があったのか、保護者側が実態を把握するのが難しいことです。

この点、学校は保護者に対し、事故の原因や経緯、学校の対応などについて調査・報告をする義務(調査・報告義務)を負っているとされた裁判例もあります。ただ遺憾ながら、その調査・報告義務が十分尽くされず事実関係が未解明のままに終わってしまう事例が少なくないと、筆者は感じています。

学校の安全保持義務違反や調査・報告義務違反の法的責任を問うには損害賠償請求の形をとらざるを得ませんが、保護者としては、民事調停を申し立てて、裁判所を仲介として、再発防止のための改善策や取り組みを学校側と話し合うのも一つの方法だと思われます。