北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』
トランスジェンダーの従業員 制服どう対応?-意向に最大限配慮
2023.10.14
北日本新聞掲載 2023年10月14日
執筆者:弁護士 片口 浩子
会社を経営しています。戸籍上女性の従業員から「トランスジェンダーであり、自認する性別に合わせた制服を着たい」と相談を受けました。どう対応すれば良いでしょうか。
LGBTとは「L」がレズビアン(女性の同性愛者)、「G」がゲイ(男性の同性愛者)、「B」がバイセクシャル(両性愛者)、「T」がトランスジェンダー(心の性と体の性との不一致)の頭文字からできた言葉で、性的マイノリティーの総称として使われています。
そのほか「Q」のクエスチョニング(性的指向や性自認が明確でない場合やどちらかに決めたくないと感じるなど、特定の状況に当てはまらない人)とクィア(既存の性の分類に当てはまらない性的マイノリティーの総称)を加え、LGBTQが用いられることもあります。ほかに「LGBTQ+」「LGBTs」などの言葉もあります。
ここでトランスジェンダーと混同される言葉として「性同一性障害者」があります。この性同一性障害は2019年、世界保健機関(WHO)が精神障害の分類から除外し、最近では「性別違和」「性別不合」との名称が用いられることが増えましたが、これらは、医療的なケアが必要とされた場合の診断名です。一方、トランスジェンダーは性的違和を感じるものの、特に医療的なケアを必要としない人も含む概念であることに注意が必要です。
さて、今回の相談です。労働契約法上、会社には職場環境配慮義務(労働契約法5条)があります。また今年6月、いわゆるLGBT理解増進法が施行されました。同法への批判はあるものの、事業主に対し「就業環境の整備」などに努めるよう規定しています。
裁判例では、会社の服務命令に反して自認する性別の服装や化粧で出勤した従業員を懲戒解雇した事案で、服務命令違反による解雇が無効とされたものがあります(東京地裁決定2002年6月20日)。
事業内容、職種、従業員の所属などによって、取るべき対応は一様ではありません。個人ごとに要望も異なります。会社としては、企業秩序や業務遂行上の支障などを考慮しつつ、性に関する問題は個人の尊厳に関わる重要な事項であることを理解し、従業員の意向に最大限配慮すべきです。
今回は従業員から相談を受けた場合の事案でしたが、声を上げられない当事者が多いことを想定して対応していくことが望ましいでしょう。