北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』
朝勉強会は「残業」ではない?-強制なら残業代発生
2022.08.13
北日本新聞掲載 2022年8月13日
執筆者:弁護士 伊藤 建
私の勤務先では週1回の早朝勉強会があり、全社員参加しなければなりません。上司は「朝は残業ではない」といいますが、残業代を支払わなくてもいいのでしょうか。
残業代というと、会社に「残って」仕事をする場合だけが対象となるように思えますが、実際には違います。会社の定めた所定労働時間を超えれば時間外労働となるため、会社は時間外賃金(いわゆる残業代)を支払わなければなりません。また、1日8時間の法定労働時間を超えるならば、時間外賃金は1.25倍に割り増しされます。残業代の対象となるか否かは、朝か夜か、早出か残業かは関係ないのです。
それでは早朝勉強会は労働時間といえるのでしょうか。就業規則に「始業時間前までに着替えて作業場に移動し、実作業の準備まで終えなければならない」と定めていた会社で、着替えや移動、準備作業が労働時間に当たるかが争われたことがあります。最高裁は、労働基準法の労働時間を「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と解釈し、このケースは労働時間に当たると判断しました。もし会社が5分前集合や、始業時間前の整理整頓を義務付けていれば、その時間は労働時間に当たります。
早朝勉強会が労働時間に当たるかどうかも「指揮命令下に置かれている」といえるかがポイントとなります。相談者の勤務先のように全社員が参加しなければならない場合は指揮命令下といえます。出席せずペナルティーを課せられなかったとしても、勉強会後に感想文の提出を求めたり、遅刻・欠席すると上司から注意されたりする場合は「指揮命令下」と判断されることもあります。
会社側は、早朝勉強会が労働時間に該当しないようにするためには、参加の強制はせず、参加しない人に不利益な取り扱いもしないようにしましょう。ただ実際には完全に任意参加とすることは難しいでしょう。勤務時間内に行うのが望ましく、勤務時間外に行うならば、残業代を支払っておく方が安心です。
もっとも、新人の美容師が勤務時間後に美容室を無償で使用して練習したいと申し出た場合にまで、残業代を支払えないことを理由に断るべきではありません。会社としては、後から時間外労働だと言われないように、労働者からの申出書などを用意しておくとよいでしょう。