決議文・意見書・会長声明
オンライン接見の実現に向け議論を尽くすよう求める会長声明
2022.03.09
- 現在,刑事手続のIT化の議論が,法務省の検討会(「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」。以下,「本検討会」という。)で進められている。検討会では,刑事手続について情報通信技術を活用する方策に関し,現行法上の法的課題を抽出・整理した上で,その在り方が検討されている。
- 本検討会における論点項目について,「書類の電子データ化,発受のオンライン化」「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」が主に挙げられており,この中に被疑者・被告人との接見交通が論点項目として掲げられている。
- 現在,日弁連では,逮捕段階における公的弁護制度の創設が議論されている。逮捕段階からの充実した弁護活動を可能にするためには,逮捕されて間もない時点における迅速な接見を可能にするため,オンラインを活用した接見交通を実現する必要性が高い。また,身体を拘束された被疑者・被告人が十分な防御準備をするためにも,書類の授受を含む接見交通のオンライン化の必要性がある。
特に,当会を置く区域は日本海側の降雪地帯にあるところ,昨年1月の記録的豪雪により,数日にわたって道路,鉄道の混乱が続いた経験からも,気象や交通状況に左右されることなく即時の接見を可能とするオンライン接見が導入される必要性が高い。
また,昨年9月末をもって,富山地方裁判所高岡支部に対応する高岡拘置支所の収容業務が停止され,以後の代替施設は富山市に所在する富山刑務所とされたことから,高岡支部に対応する富山県西部地域に事務所を置く弁護人の迅速円滑な接見に難を生じるようになった。さらに,本年2月18日,富山県警は県東部と西部の各5つの警察署をそれぞれ2署に統合することを発表しており,今後,特に逮捕段階における接見について,現在よりも地理的懸隔を生ずる懸念もある。また,地方における人口減少とそれに伴う警察署・拘置所・少年鑑別所等官公署の統廃合は今後も想定される。そのような事象に伴い接見への地理的な支障が生じるおそれがあるが,このような問題に対応するためにもオンライン接見は有用である。
そのため,オンラインを活用した接見交通の必要性を十分に意識した議論が今後も本検討会で継続的になされていくことについて,当会は重大な関心を抱いている。 - 本検討会における議論の中には,なりすましや弁護人以外の者の同席の防止等を図る必要性を指摘する慎重論もあるようである。しかし,逮捕直後の迅速な接見を実現し冤罪・誤判を防止する手段として,オンラインを活用した接見交通は極めて有用である。あらかじめ刑事収容施設に弁護人の連絡先を登録する等の対策も考えられるところであり,オンラインを活用した接見交通を実現するための積極的な議論が求められる。
また,オンラインを活用した接見交通の実現については,設備や予算などの問題も指摘されているようである。しかし,新たな設備の整備等が必要なのは,令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することである。遅滞なく通信し,協議するための十分な機会,時間及び設備を提供されなければならないことは,国連被拘禁者処遇最低基準規則にも定められているところであり,被疑者・被告人が弁護人の援助を受ける権利を実現するための設備等も当然に国の責任において提供されるべきである。 - 刑事手続のIT化の議論は,何よりも被疑者・被告人の人権保障を拡充するという観点で進められるべきである。当会は,オンラインを活用した接見交通の実現に向け,本検討会にて更に具体的な議論が尽くされることを期待する。
以上
2022(令和4)年2月24日
富山県弁護士会 会長 足 立 政 孝