北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』

遺産を全て妻に残したい-公正証書遺言作成を

2019.03.09

北日本新聞掲載 2019年3月9日

執筆者:深水信行弁護士

私には長年連れ添った妻がいますが、子も孫もいません。両親は既に亡くなり、弟が1人、妹が1人います。財産は、自宅の土地建物の他、預貯金と株がいくらかあります。私が先に死んだら、財産は全て妻に相続させるつもりです。この場合、遺言書を作成しなくても大丈夫でしょうか。また、作成するとしたら、どうすればよいのでしょうか。

遺言がない場合、遺産は、法定相続人が民法の定める割合に従って相続します。両親も子どももいない場合、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1の割合で遺産を相続します。あなたが妻に全財産を取得させたいなら、遺言書を作成しておかなければなりません。

遺言には、大きく分けて自筆証書遺言と公正証書遺言があります。自筆証書遺言は、費用がかからず証人も不要で、秘密も保たれるという利点がありますが,遺言は方式が厳しいので、氏名、日付、押印といった要件を一つでも欠くと無効になります。また、死後、遺言が発見されないままだと、遺言の内容が実現しない危険があるといった問題も起きます。

そこで、若干の手数料がかかりますが、公証人役場で、公正証書遺言を作成する方法をお勧めします。公正証書遺言は、公証人が遺言に必要な要件が満たされているかを確認し、遺言書原本を公証人役場で保管するため、最も確実な遺言方式といえます。

遺言の際は、遺言執行者を指定しておくと遺産の分配を円滑に進めることができます。銀行預金の払い戻しには通常、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要となりますが、反対する相続人がいたら、改めて別の手続が必要になります。遺言執行者を指定しておけば、あなたのケースでは問題なく遺言内容を実現できます。

なお、全財産を妻に相続させる内容の遺言をした場合、他の相続人との関係で遺留分(遺言によっても奪うことのできない法定相続人の権利)の問題が生じることがありますが、兄弟姉妹に遺留分はありません。遺留分のことを考慮せずに遺言をすることが可能なのです。

また、遺産を取得させる人が複数いて遺言内容をどのようにするか簡単に決められない、といった複雑な事情がある場合、弁護士に相談してから内容を決め、その弁護士に公正証書遺言の証人になってもらうことが望ましいでしょう。