決議文・意見書・会長声明
組織的犯罪処罰法の改定(いわゆる共謀罪の新設)に抗議する会長声明
2017.06.27
去る6月15日、参議院本会議において、いわゆる共謀罪(テロ等準備罪)の新設を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改定案の採決が行われ、同法案は賛成多数で可決成立した。参議院法務委員会での審議が尽くされないまま、委員会採決を省略して本会議での採決が強行されるという、異例の手続きによる成立であった。
これまで当会は、以下の理由から改定に強く反対してきたところである。即ち、第1に、テロ対策目的での共謀罪新設を必要とする立法事実は認め難いこと、第2に、処罰対象を絞り、あるいは捜査機関の権限濫用を防止するために犯罪成立要件が加重されたとは言えず、過去に3度廃案になった共謀罪法案とその本質は変わっていないこと、第3に、法益侵害に向けられた具体的な危険性がある行為を処罰対象とし、未遂犯すら例外とし、より前段階の予備罪や陰謀・共謀罪は重大な犯罪について極めて例外的に処罰することを原則としている我が国の刑事法体系を根本から覆すものであること、第4に、共謀罪の成立要件がきわめて曖昧であるため、捜査機関の恣意的な解釈・運用を許すものとなること、第5に、犯罪計画や目的といった内心の探求が不可欠となり、自白の強要や盗聴捜査等が横行し、プライバシー侵害と監視の中で市民の自由な活動が萎縮するおそれがあること、である。
共謀罪は、犯罪の「共謀」という内心を処罰対象とするため、人の内心を探求する捜査を拡大・助長するものであり、思想・良心の自由(憲法19条)、表現の自由、通信の秘密(21条)、プライバシー権(13条)といった憲法上の基本的人権を侵害するおそれが大きい。また、犯罪の成立要件が曖昧であるため、犯罪構成要件の適正さと明確性を求める適正手続条項(31条)にも抵触する可能性がある。この共謀罪の捜査及び処罰によって民主主義の過程そのものが回復不能なまでに傷つけられることを危惧せざるを得ない。
当会は、かかる憲法違反の疑いのある法律が成立したことに対し強く抗議するとともに、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする職能集団として、今後とも、本法律の廃止に向けた取組みを続けることを表明するものである。
2017(平成29)年6月21日
富山県弁護士会 会長 山 口 敏 彦