決議文・意見書・会長声明
消費者庁・消費者委員会・国民生活センターの地方移転に反対する会長声明
2016.02.26
政府は、「まち・ひと・しごと創生本部」を内閣に設置し、その中の「政府関係機関移転に関する有識者会議」(以下、「有識者会議」という。)において、政府関係機関の地方移転の検討が行われている。この有識者会議では、現在、徳島県からの提案を受けて、消費者庁、内閣府消費者委員会(以下、「消費者委員会」という。)及び独立行政法人国民生活センター(以下、「国民生活センター」という。)を同県に移転することが具体的に審議されている。 政府関係機関の地方移転を促進することは、政府関係機関や産業の東京圏への一極集中を是正し、地方の活性化を目指すものであり、その基本的な方向性は評価できる。しかしながら、政府関係機関の地方移転により、当該機関の本来の機能が低下することになっては本末転倒である。有識者会議においても、「官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関」、「中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関」、「現在地から移転した場合に機能の維持が極めて困難となる」機関についての提案は、移転の検討対象とはしないという方針が示されている。かかる方針に照らせば、消費者庁、消費者委員会及び国民生活センターは、移転がふさわしくない機関の典型例であると考えられる。
そもそも、消費者庁は、わが国の従来の消費者保護行政が縦割り省庁によって不統一に行われてきたことに対し、消費者行政を一元化し安心安全な市場の確保を図るため、政府全体の消費者行政を推進する司令塔の役割を担う組織として、2009年に創設された。消費者庁がこの司令塔の役割を適切に果たすためには、関係省庁との日常的な連携が必要であり、特に、対面での説明・調整が不可欠である。消費者庁は、特定商取引法、消費者契約法、景品表示法、消費者安全法など専管・共管を含めて約30本の消費者保護関連法を所管している。消費者被害の防止を図るためにはこれら消費者保護関連法の制定・改正の検討を迅速に行う必要があり、法改正作業にあたっては、消費者庁の担当部署が資料を準備して消費者委員会に出席して説明をし、法案を作成する過程では内閣法制局と頻繁に協議を行い、国会審議にあたっては各政党・国会議員に事前説明するなど、政府関係機関との密接な連携が不可欠である。また、消費者庁は、消費者安全に関する重大事故発生時には、官邸と一体となった緊急対応について中心的役割を果たすことが必要であり、実際に、2013年暮れに発覚した冷凍食品への農薬混入事件においては、迅速な対応がなされているところである。それにもかかわらず、他の省庁を東京圏に残したまま消費者庁を地方に移転させることは、消費者庁に求められている機能を著しく損ない、消費者行政の停滞を招きかねないのみならず、国民の安心安全を軽視するものである。
次に、消費者委員会は、各種の消費者問題について、自ら調査・審議を行い、消費者庁を含む関係省庁の消費者行政全般に対して意見表明(建議等)を行うとともに、内閣総理大臣、関係各大臣又は消費者庁長官の諮問に応じて調査・審議を実施する第三者機関として、2009年に消費者庁とともに創設された。消費者委員会は、各種の消費者問題について、関係省庁に資料提供や報告を求め、審議のうえ政策提言を行っており、まさに、消費者庁と一体となって消費者行政の司令塔機能を発揮しているものと言える。消費者委員会が、関係省庁との意見交換を通じた検証、監視機能を発揮するためには、単にテレビ会議システム等により意見交換が技術的に可能であるということでは足りず、事前の事務レベル打ち合わせを含めて、直接面談し緊密な意見交換を行うことが必須である。つまり、消費者委員会の機能を維持するためには、消費者庁を含む関係省庁と同一地域に所在することが不可欠である。
そして、国民生活センターは、全国の消費生活相談情報(PIO−NET情報)を集約・分析し、一般消費者や地方自治体に情報を発信するだけでなく、消費者庁や消費者委員会や各省庁の消費者関連法制度の不備や見直しの問題提起を行う機能を担っている。各省庁の消費者関連法の制定・改正を審議するときには、国民生活センターの職員がオブザーバーとして審議に参加し報告することが頻繁に行われており、国民生活センターには、消費者庁ほか関連省庁との密接な連携により、政府全体の消費者行政を推進する機能を果たすことが求められている。また、国民生活センターは、全国の消費生活センター・消費生活相談窓口を支援し、相談、あっせん、ADR、研修、商品テストなどを行う中核機関、センターオブセンターの機能を有しているところ、これらの機能を果たすためには、専門的知見と相談処理の経験豊富な消費生活相談員を多数確保するとともに、担当大臣、連携する各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠であり、地方移転した場合には十分にその機能が果たせないおそれがある。このように、国民生活センターがその期待されている機能を果たすためには、消費者庁をはじめとする関連政府機関や国会の間近に所在することが不可欠である。
以上により、消費者庁、消費者委員会及び国民生活センターを地方に移転することは、これら各機関が持つ機能、役割を大きく低下させ、消費者行政の推進を阻害し、国民の安心安全を軽視するものであるから、当会はこれに強く反対する。
2016年(平成28年)2月24日
富山県弁護士会 会長 水 谷 敏 彦