決議文・意見書・会長声明

司法試験合格者数の削減を求める決議

2015.02.18

第1 決議の趣旨

司法試験合格者数をすみやかに多くとも年間1000人以下とすべきである。

 

第2 決議の理由

1 弁護士人口の急増と供給過剰

 (1) 政府は,2002年3月,司法試験合格者数を2010年頃までに年間3000人程度に増員させることなどを内容とする「司法制度改革推進計画」を閣議決定した。これは,司法制度改革審議会意見書(2001年6月)を受けて,弁護士に対する法的需要が将来増加し続けるとの予測のもと,それまで長年500人程度で,1999年以降は1000人程度となっていた年間合格者数をさらに増やす法曹人口増員策を打ち出したものであった。

この閣議決定以後,司法試験合格者数は増やされ,2007年以降は年間2000人程度という状況が続いている。

この間,裁判官・検察官はほとんど増員されておらず,弁護士のみが増加する結果となった。2002年時点において1万8838人であった弁護士人口は,今日までの僅か10年余りの間におよそ1.93倍の3万6364人(2015年1月1日現在)にまで急増している。

当会にあっても,2002年時点で51人であった所属会員数は,現在では110人に上り,2倍を超えて急増している。

 (2) ところが,弁護士に対する法的需要が増加し続けるとの政府の予測は大きく外れた。裁判所が新たに受け付ける民事・行政裁判事件は2003年をピークに減少傾向にあり,現在はピーク時の6割程度にまで減っている。また,刑事事件は弁護士業務全体の3%程度の分野に過ぎない。弁護士会等の法律相談の件数も著しく減少し,企業や官公庁,各種団体からの需要も少ないことが明らかになっている。

なお,当会のような小規模単位会や過疎地においても弁護士不足は既に解消しており,地裁支部管轄内に弁護士がいないいわゆるゼロ地域は1999年には39地域あったが,2008年までになくなっている。

こうして,急増した弁護士は,その需要に比して明らかに供給過剰の状況に陥っている。

 

2 弁護士過剰の弊害

(1) OJT不足による弁護士の質の低下

弁護士の急増とそれに伴う弁護士の供給過剰は,司法修習終了者の深刻な就職難をもたらし,弁護士資格取得後に既存の法律事務所での実務経験を経ることなく即時に独立開業するいわゆる「即独」弁護士等を増加させ,また,新人・若手弁護士の割合を急増させ,その結果,十分なOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を受ける機会を新人・若手弁護士から奪うことになった。

OJTは,職業的専門家がその後継者を養成する上で基本となる方法であり,弁護士の場合も,その専門家としての能力を涵養し,仕事の質を維持・向上させる上で極めて重要な役割を担っている。そのOJTの機会が減少することで懸念されるのは,法曹人口増員策のもとで司法試験合格後の司法修習期間が短縮されて司法修習の質が低下していることと相まって,今後,弁護士の平均的な質が急速かつ構造的に低下することである。

この懸念に十分な理由があることは,医師の養成において2年間の臨床研修が義務づけられていること(いわゆる研修医制度)や,公認会計士について二次試験合格後の2年間の実務経験が資格要件となっていることなどに照らして明らかである。

2014年4月に公表された総務省の政策評価書も,法曹人口の拡大政策について「現在の2000人増員を吸収する需要の顕在化はなく,弁護士の供給過多により就職難が発生し,OJT不足による質の低下が懸念」されると評価し,「OJT不足による質の低下」を明確に指摘するものとなっている。

(2) 有為な人材の逸失

さらに,また,弁護士の急増とそれに伴う弁護士の供給過剰は,弁護士を廃業する請求登録取消者を急増させるまでに,弁護士の経済的基盤を急激に悪化させている。

この弁護士の経済的基盤の悪化は,「給費制」に代えて司法修習生に借金を強いる「貸与制」が2011年に導入されたことや前述の深刻な就職難とも相まって,弁護士の職業的な価値や魅力を急速に失わせ,その結果,法曹志望者数が激減する事態に至っている。延べ7万人を超えていた2004年の法科大学院の出願者数は,2013年にはその僅か5分の1にあたる延べ1万4000人程度に激減し,大学の法学部を志望する者の数もまた,大きく減少している。

法曹志望者数の激減は,法曹界が有為な人材を確保することを著しく困難ならしめる。法曹界からの有為な人材の逸失により,弁護士の平均的な質が今後,長期的かつ慢性的に低下していくことが懸念される。

 

3 国民に及ぼす不利益

このように質の低下した弁護士が増加することになれば,相談者に対し誤った助言や指導がなされ,受任事件についての不適切な処理が横行するなど,相談者・依頼者たる国民の権利利益の保障について直接的かつ重大な支障を及ぼすことになる。また,弁護士が経済的動機から依頼者へ無批判に従属することになれば,職務の独立性と適正性が確保されず,受任事件の相手方当事者の権利利益を侵害することにつながる。

さらに,弁護士ないし弁護士会の公益活動にも困難をもたらす。弁護士ないし弁護士会はこれまで,社会的経済的弱者を救済するための採算性を度外視した業務や手弁当による公益活動に熱心に取り組んできたが,弁護士の経済的基盤の悪化とも相まって,こうした弁護士の公益的な取り組みは大きく停滞し,その結果,国民の権利利益の保障に悪影響が及ぶことになる。

弁護士の質の低下によって不利益を受けるのは国民であり,結局のところ,国民が被害者となる。

 

4 結論

日本弁護士連合会と当会はこれまで,弁護士の職業倫理の維持・陶冶に努めるとともに,新たな職域の開拓や,司法修習生・弁護士向けの就職支援活動,新人弁護士向けの個別研修等々,弁護士の質を維持するためになすべき施策は講じてきた。しかし,それにも限界があり,年間2000人程度の現状の司法試験合格者数がこのまま維持されるのであれば,現在の弁護士の質を今後も維持することは困難である。

弁護士がその質を維持し,国民の権利利益の保障に奉仕しうる職業的専門家であり続けるためには,現実の需要を無視した弁護士大量増員策から決別し,現状の司法試験合格者数を大幅に削減する必要がある。弁護士の質は,一旦低下してしまえばこれを再び向上させるのは容易なことではなく,この削減実施は一刻の猶予もならない。

そこで,司法試験合格者数について,まずは喫緊に2002年閣議決定時の水準までの引き下げを実現し,弁護士の質の低下を防がなければならない。

よって,当会は,決議の趣旨のとおり,司法試験合格者数をすみやかに多くとも年間1000人以下とすべきである旨,決議する。

 

2015(平成27)年2月13日

富山県弁護士会