決議文・意見書・会長声明

「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」に反対する会長声明

2014.03.17

政府は、2014(平成26)年3月11日、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「改正案」という。)を閣議決定した。政府は、この改正案を、本年の通常国会において成立させ、2015(平成27)年4月から施行することを目指している。

しかし、この改正案は、2014(平成26)年1月29日に取りまとめられた労働政策審議会建議「労働者派遣制度の改正について」に基づく内容となっており、①専門26業務の区分規制を撤廃したうえ、②業務に関わらず、無期雇用や60歳以上の派遣労働者等に関する期間制限を撤廃している。また、③有期雇用の派遣労働者については、業務単位でなく個人単位で同一の派遣先への派遣可能期間を3年とするが、派遣先の労働組合等の意見を聴取すれば、派遣労働者を入れ替えることで3年経過後も継続して派遣労働者を受け入れることができるとされている。

本来、労働者派遣は、雇用の不安定さや賃金低下を招くものであることから、特定の専門的な業種において、労働力の需要調整のため、あくまでも直接雇用の例外として一時的・臨時的にのみ限定的に認められるべきものである。しかし、上記改正案が成立し、施行されることとなれば、無期雇用か有期雇用かに関わらず、直接雇用原則から導かれる常用代替防止の考え方は事実上放棄されることとなる。

すなわち、①いわゆる専門26業務による区分規制を廃止すれば、あらゆる業種において、正規労働者から低賃金の派遣労働者への置き換えが行われるという事態を生じさせることとなり、結果、派遣労働者の増大につながる。

また、②無期雇用の派遣労働者については、期間制限が撤廃されたからといって、必ずしも安定雇用が期待できる状況にはない。改正案によれば、賃金や教育訓練、福利厚生施設について、派遣労働者と派遣先正規社員との「均衡を配慮する」よう努力義務が定められるにとどまり、派遣労働者の処遇を改善するための実効性ある具体策は導入されていない。結局、派遣労働者は、生涯低賃金のまま、いつ整理解雇されるかも分からない不安定な地位に置かれて働くことを余儀なくされる。

さらに、③有期雇用の派遣労働者についても、同一の派遣労働者の派遣期間を上限3年としつつ、派遣先が3年ごとに派遣労働者の入れ替えを繰り返すことにより、事実上、同一の業務につき無期限で派遣労働者を受け入れることが可能な制度となっている。継続的受け入れの条件とされる労働組合等の意見聴取については、そもそも労使自治が十分に定着していない現状においては実効性に乏しく、しかも、労働組合等の側には拒否権がないうえ、一度反対意見が出ても、派遣先において再度の説明をすれば派遣労働者の受け入れが可能とされており、歯止めとしての機能は期待できない。このため、派遣先における恒常的な業務についても、派遣労働者の使用が固定化する虞がある。

以上のとおり、改正案は、常用代替防止の原則を軽視し、労働者の安定雇用、労働条件の維持・向上を損なわせるものであって、非常に問題があるものといわざるを得ない。

当会は、派遣労働者の雇用安定確保を求める立場から、今般の労働者派遣法の改正に強く反対の意見を述べるとともに、労働者保護の観点から、派遣労働者の常用代替を防止し、雇用安定を確保するための労働者派遣法改正を行うよう求めるものである。

2014(平成26)年3月17日

富山県弁護士会   会 長   藤 井 輝 明