決議文・意見書・会長声明

「大崎事件」再審請求棄却決定に抗議する会長声明

2022.07.21

鹿児島地方裁判所は、去る2022年(令和4年)6月22日、いわゆる大崎事件第4次再審請求事件につき、再審請求を棄却する決定をした(以下「本決定」という)。

大崎事件は、1979年(昭和54年)10月12日、男性が鹿児島県大崎町の農道脇水路に転落した後、前後不覚で道路上に横たわっていたところ、同日午後9時頃近隣住民によって自宅に運ばれたが、男性の義姉である原口アヤ子氏(以下「原口氏」という。)が、同氏の夫及び義弟と共謀して同日午後11時頃に男性を殺害し、翌朝4時頃、その遺体を、義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。原口氏は逮捕時から一貫して無実を主張したが、1980年(昭和55年)3月31日、鹿児島地方裁判所は、「共犯者」とされた3名の自白や義弟の妻の供述を主な証拠として、原口氏に対し懲役10年の有罪判決を下し、同判決は、控訴、上告を経て、1981年(昭和56年)1月30日、確定した。

原口氏は、一貫して無実を訴え続けており、第1次再審請求審(2002年(平成14年)3月26日)で再審開始決定を得て以来、これまでに、第3次再審請求審、同即時抗告審と、合計3回にわたり、再審開始決定を勝ち取っていた。しかし、検察官は、いずれの再審開始決定に対してもことごとく不服申立てに及んでおり、裁判所は、いずれの再審開始決定も取り消してきた。その中でも特に、第3次再審請求の即時抗告審の再審開始決定に対して検察官が特別抗告した際、最高裁判所は、検察官の主張が法定の抗告理由に当たらないと判断しておきながら、他方で、再審開始を認めた即時抗告審の決定を「取り消さなければ著しく正義に反する」として、地方裁判所と高等裁判所がいずれも認めていた再審開始の決定を、あえて職権で取り消し、再審請求を棄却したのであった。

今回の第4次再審請求審において原口氏は、本件が殺人事件などではなく、もともと被害者が死亡していた「事故」であったことを明らかにするために、新証拠として、男性が自宅に運び込まれた時点で既に死亡していた可能性が高いとする救命救急医の鑑定書などを提出した。また、臨床医学、供述心理等に関する5名の専門家について証人尋問が実施され、男性を自宅に運んだ近隣住民の供述が信用できないことが示された。すでに3度にわたって再審開始決定がなされている上に、それらの決定の根拠となった証拠にこの度新たに採用された証拠を加えて判断すれば、今回、再審開始決定をすべきことは明らかであった。しかしながら鹿児島地方裁判所は、これらの新証拠による検討を十分に行わず、不合理にも再審請求を棄却したのであった。

本決定は、新旧全証拠の総合評価と「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の大原則の適用を求めた白鳥事件・財田川事件の判断に、真っ向から反するものであり、到底是認することができない。

原口氏は、1979年(昭和54年)から40年以上の長きにわたって無実を訴え続けてきた。また、初めて再審開始決定がなされた2002年(平成14年)から既に20年以上が経過している。にもかかわらず、検察官の不服申立てや裁判所の不合理な判断によって、再審が開始されるべき原口氏が今日に至るまで救済されていないことは、極めて遺憾である。再審制度は、無実の人を救済するために設けられた制度であるにもかかわらず、検察官による不服申立ての繰り返しや裁判所の不合理な判断が、冤罪からの救済を阻む高大な壁として立ちふさがっている。裁判所が初めて再審開始を決定してから20年以上が経過してもなお再審公判が開かれず、再審を開始するか否かの狭間で再審請求人が翻弄され続けている状況は、現在の再審制度が冤罪からの救済としての機能を全く果たしていないことを物語っているというよりほかない。

よって、当会は、適正な刑事手続の保障と、再審請求手続における証拠開示の制度化及び再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止を含む実効的な再審制度の実現を求めるとともに、現在95歳の原口氏が一分一秒でも早く救済されることを強く希望して、本決定に対し、断固たる抗議の意思を表明する。

2022年(令和4年)7月20日

富山県弁護士会 会 長 坂 本 義 夫