決議文・意見書・会長声明

1年後に迫る成年年齢引下げに伴う若年消費者被害の拡大防止に向けた実効性ある施策を直ちに実現することを求める会長声明

2021.06.01

  1.  民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号。以下「本法律」という。)の2022(令和4)年4月1日の施行日まで,残り1年を切った。
  2.  民法の成年年齢引下げについての2009(平成21)年10月の法制審議会の意見は,成年年齢の18歳への引下げを適当としつつも,その前提条件として,①若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれを解決する施策が実現されること,②施策の効果が十分に発揮されること,③施策の効果が国民の意識として現れることを掲げていた。
     また,本法律の成立に際し,参議院法務委員会において全会一致で附帯決議がなされ,そこでは,本法律の施行にあたり,①若年者の消費者被害の拡大防止のために,知識,経験,判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)を創設すること(法成立後2年以内),②若年者の消費者被害を防止し救済を図るために必要な法整備を行うこと(法成立後2年以内),③マルチ商法等への対策について検討し,必要な措置を講ずる,④質量共に充実させた消費者教育の実施,⑤18歳,19歳の若年者への周知徹底や社会的周知のための国民キャンペーン実施などの施策について格別の配慮が求められた。
  3.  しかし,本法律が成立した2018(平成30)年6月以降,状況はさほど変わっておらず,成年年齢の引下げが1年後に迫る現時点において,上記附帯決議が求める施策が十分に実施されているとは到底言い難い。
     特に,18歳,19歳の若年者が未成年者取消権を喪失することによる消費者被害拡大に対応する施策は急務であるが,極めて不十分である。2018年に消費者契約法が一部改正されたが,上記附帯決議が求めるつけ込み型不当勧誘の取消権の創設は,参議院法務委員会の附帯決議で明記された期限を既に徒過しているにもかかわらず,その目途も立っていない。
     また,消費者教育についても,「アクションプログラム」や「成年年齢引下げに伴う消費者教育全力キャンペーン」が実施されているものの,消費者被害の予防に繋がる実践的な消費者教育が十分に行われているとは言えず,さらに成年年齢引下げ自体の周知はされても,未成年者取消権を18歳で失うことによる消費者被害拡大のおそれについての周知徹底も十分になされていない。
  4.  当会は,2017(平成29)年8月28日,民法の成年年齢引下げについて,「若年者への消費者被害拡大を防止するための十分な施策の準備と,時間をかけた国民的議論を経た上で決定していく必要がある」ことから「これらが実現していない現時点において,民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることには反対する」という会長声明を表明すると共に,これまで富山県消費生活センターと共催して富山県内の高校生を対象とした消費生活講座を実施するなど,若年者の消費者教育の充実に向けた活動を推進してきたところであるが,上記状況を踏まえ,1年後に迫る本法律施行を前に,政府に対し,上記附帯決議に示されたような成年年齢引下げに伴う若年消費者被害の拡大防止に向けた実効性ある施策を直ちに実現するよう求める。

以上

2021(令和3)年5月26日
富山県弁護士会 会長 足 立 政 孝