決議文・意見書・会長声明

クレジット過剰与信規制の緩和に反対する会長声明

2019.10.01

  1.  経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会は,2019(令和元)年5月29日,「中間整理~テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方~」を公表した。この中間整理においては,クレジットカード会社には,クレジットカード取引において,①技術やデータを活用して支払可能な能力を判断できる場合には,画一的な基準によらず,これを従来の支払可能見込額調査(割賦販売法30条の2第1項)に代えることができ,さらにその場合には,指定信用情報機関の信用情報の使用(同法30条の2第3項)を一律の義務としては課さないことが適当である,②少額・低リスクのサービス(極度額10万円以下のものが想定されている)で指定信用情報機関の信用情報を使用せずとも与信できる場合には,指定信用情報機関への基礎特定信用情報の登録(情報提供)義務(同法35条の3の56)を課さないこととすることが適当である,との方向性が示されている。
     これらは,クレジット過剰与信問題や多重債務問題を背景に,2008(平成20)年の割賦販売法改正により導入されたクレジットの過剰与信規制を大幅に緩和しようとするものである。
  2.  しかし,各クレジットカード会社が独自の審査基準により行う与信判断を従来の方法による与信判断に代えることを認めることは,クレジット業界全体として統一的な基準により過剰与信を防止するという改正法の趣旨を没却することになりかねない。仮に,多様な与信審査基準を選択肢として認めるとすれば,その与信審査基準が現行の支払可能見込額調査に代替し得るだけの客観的に合理的な審査方法であることが確認されなければならないが,各社各様の与信審査基準についてそのような確認作業を行うことは現実的には極めて困難である。また,指定信用情報機関の信用情報の使用義務を免除することになると,既に他社の与信で多重債務状態に陥っている者にもクレジットカードの利用が認められることになり,過剰与信防止の観点から問題が大きい。
  3.  次に,少額のサービスであってもそれが積み重なることによって多重債務に陥ることはあり得るうえに,少額のサービスを利用する前に,既に他社で多重債務状態に陥っている可能性もあることから,少額のサービスであるからといって,指定信用情報機関の信用情報の使用義務や登録義務を免除することは合理的とはいえない。また,少額サービスの利用の場合に,指定信用情報機関への基礎特定信用情報の登録がなされないとすると,クレジット業界全体のクレジット債務額を集約して相互に利用することによって過剰与信を防止するという指定信用情報機関の役割も大きく損なわれることになる。
  4.  多種多様なキャッシュレス決済が普及する中,クレジットカードの利用者が,過剰な債務を負担するリスクも高まっている。さらに,成年年齢の引下げがなされた場合,少額のサービスを含めてクレジット業界全体として適正な与信審査がなされる体制が維持されなければ,若年者の多重債務の被害が増大することも懸念される。
  5.  よって,当会は,今般のクレジット過剰与信規制の緩和の方針に反対する。
  6. 以 上

    2019(令和元)年9月26日

    富山県弁護士会 会 長  菊  賢 一