決議文・意見書・会長声明

修習給付金を支給する制度を創設する裁判所法改正についての会長声明

2017.04.20

2017年4月19日、司法修習生に対して修習給付金を支給する裁判所法の一部改正法が成立し、同年11月から修習を開始する司法修習生から、修習給付金が支給されることになった。

2011年に給費制が廃止され、修習資金を貸与する制度(貸与制)に移行してから司法修習生は、修習のために約300万円の貸与金を負担することとなり、法科大学院や大学の奨学金の債務も合わせて多額の債務を負担する者が少なくない。近年法曹志望者は激減しているが、このような経済的負担の重さが一因となっていることが指摘されており、当会でも2013年3月28日付の「法曹人口の急激な増加を改め、司法修習生に対する適切な経済的支援を求める声明」などにより、司法修習生の経済的支援の必要性を訴えてきたところである。

今回の裁判所法の改正により支給されることになる修習給付金は、貸与制導入以前の給費よりは金額は少ないものの、司法修習生が充実した司法修習を行うための経済的支援の制度として、大きな一歩を踏み出すものである。当会は、この制度の創設を歓迎し、この間、司法修習生に対する経済的支援の制度の創設に賛同しご尽力いただいた国会議員や、署名活動等に協力いただいた市民の皆様に対して、あらためて心より感謝申し上げる。

ところで、今回の改正では、2011年11月から2016年11月までに司法修習生に採用された者には、給付金制度が遡及的に適用されないことになっている。しかし、今回の法改正がなされるに至った背景として、近年、弁護士の所得が著しく低下している現実があることを忘れてはならない。すなわち、1年目の弁護士の所得の中央値は、2010年は524万円であったのに対して、2015年は317万円となっており、約40%も減少している。司法修習費用の貸与を受けている者の中には、大学や法科大学院の学費のための奨学金の返済を行わなければならない者もあることを考えれば、このような経済的状況において貸与金を返済することは、相当な困難を伴うものである。このような現実を踏まえて今回の法改正の背景を考えれば、既に司法修習を終え、また、現在司法修習を受けている貸与制世代に対しても、新たな制度と同等の経済的支援がなされなければならない。

そもそも、司法制度は、三権の一翼として、法の支配を社会の隅々まで行き渡らせ、市民の権利を実現するための社会に不可欠な基盤であり、法曹は、その司法を担う重要な役割を負っている。このため国は、司法試験合格者に法曹にふさわしい実務能力を習得させるための司法修習を命ずるとともに、司法修習生に修習専念義務を課して、原則として兼業等を行うことを禁止している。このような制度のもとに司法修習に専念して、司法を担う重要な役割を果たそうとする者に対して、多額の司法修習費用を負担させたまま放置することは、制度の趣旨にも反するものといえる。

そこで、当会は、政府に対し、2011年11月から2016年11月までに司法修習生に採用された者に対して、少なくとも今回の法改正により創設される修習給付金と同等の経済的支援がなされるよう、さらなる法改正等の対応を行うことを求める。

以 上

2017(平成29)年4月20日 
富山県弁護士会 会長 山 口 敏 彦