決議文・意見書・会長声明

夫婦同氏の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所大法廷判決を受けて民法における差別的規定の改正を求める会長声明

2016.03.28

  1.  2015年(平成27年)12月16日、最高裁判所大法廷は、夫婦同氏の強制を定める民法第750条は憲法第13条、同第14条、同第24条のいずれにも違反するものではないと判断した。
     その理由としては、婚姻の際の「氏の変更を強制されない自由」は憲法上保障されていないこと、夫婦同氏の強制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではないこと、などが挙げられている。
  2.  しかしながら、かねて日本弁護士連合会が「選択的夫婦別姓制導入並びに非嫡出子差別撤廃の民法改正に関する決議」(1996年10月25日)において指摘したとおり、民法第750条は、憲法第13条及び同第24条が保障する個人の尊厳、同第24条及び同第13条が保障する婚姻の自由、同第14条及び同第24条が保障する平等権を侵害している。
     また、民法第750条は、我が国が1985年(昭和60年)に批准した女性差別撤廃条約の第16条第1項(b)が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」にも反するものである。
  3.  今回の最高裁大法廷判決においても、5名の裁判官(3名の女性裁判官全員を含む。)が、民法第750条は憲法第24条に違反するとの意見を述べた。
     そのうち岡部喜代子裁判官の意見(櫻井龍子裁判官、鬼丸かおる裁判官及び山浦善樹裁判官が同調)は、夫婦同氏の強制によって個人識別機能に対する支障や自己喪失感等の負担がほぼ妻に生じていることを指摘し、その要因として、女性の社会的経済的な立場の弱さや家庭生活における立場の弱さと、事実上の圧力など様々なものがあることに触れた上で、夫婦同氏の強制が個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえないと説示している。
     この点、多数意見(全て男性の裁判官)は、夫婦同氏の強制が合理性を欠くとは認められないとか、いわゆる通称使用の広まりで氏の変更の不利益は「一定程度は緩和され得る」などと説示している。しかしながら、問題となる合理性とは、夫婦が同氏であることの合理性ではなく、夫婦が別の氏を称することを全く認めないことの合理性であると捉えるべきであろう。また、木内道祥裁判官の意見にあるとおり、法制化されない通称では、それを許容するか否かの判断を相手方に委ねざるをえず、通称を使用すること自体、決して容易ではないのが実情である。
  4.  ところで、法制審議会は、1996年(平成8年)に「民法の一部を改正する法律案要綱」を総会で決定し、男女とも婚姻適齢を満18歳とすること、女性の再婚禁止期間の短縮及び選択的夫婦別姓制度の導入を答申していた。
     また、国連の自由権規約委員会は、婚姻年齢に男女の差を設ける民法第731条及び女性のみに再婚禁止期間を定める民法第733条について、女性差別撤廃委員会は、これらの規定に加えて夫婦同氏を強制する民法第750条について、それぞれ、日本政府に対し改正するよう重ねて勧告を行ってきた。
     法制審議会の答申から19年、女性差別撤廃条約の批准から30年が経つにもかかわらず、国会は、上記各規定を放置してきたものである。今回の最高裁大法廷判決における山浦善樹裁判官の反対意見も、1996年(平成8年)の法制審議会の答申以降相当期間を経過した時点において、民法第750条が憲法の諸規定に違反することが国会にとっても明白になっていたと指摘している。
     今回の最高裁大法廷判決における多数意見も、自らの判断が選択的夫婦別氏制度に「合理性がないと断ずるものではない」ことをあえて明らかにしている上、寺田逸郎裁判官も補足意見において「これを国民的議論、すなわち民主主義的なプロセスに委ねること」が相当である旨を説示しているところであり、この問題についての議論を事実上国に促したものと考えられる。そこで、国会は直ちに夫婦別氏制度の導入について改めて議論をなすべきである。
  5.  一方、上記同日、最高裁判所大法廷は、女性のみに6か月の再婚禁止期間を定める民法第733条について、100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分は合理性を欠いた過剰な制約を課すものとして、憲法第14条第1項及び同第24条第2項に違反するとの判断を下した。
     この点、民法第733条を違憲であるとした点については一定の評価ができる。しかしながら、DNA検査技術の進歩により生物学上の父子関係を科学的かつ客観的に明らかにすることができるようになった現在においては、血統の混乱防止という立法目的を達成するための手段として、再婚禁止期間を設ける必要性は完全に失われているというべきであり、100日を超えない期間についても、女性にのみ再婚禁止期間を存続させる理由はない。
  6.  よって、当会は、国に対し、民法第750条及び同第733条並びにこれらの規定とともに法制審議会にて改正が答申され、国連の各委員会から勧告がなされている同第731条(婚姻適齢)も速やかに改正することを強く求める。

 

2016年(平成28年)3月28日 

富山県弁護士会 会長 水谷 敏彦