決議文・意見書・会長声明

集団的自衛権行使容認と安全保障法制改定法案に反対する会長声明

2015.05.28

  1.  政府は、5月14日、自衛隊法、武力攻撃事態法、周辺事態法、国連平和維持活動協力法等10本の法律を一括改定する「平和安全法制整備法案」、及び自衛隊の恒久的な海外派遣を認める新規立法の「国際平和支援法案」(以下、両者を併せて「本法案」という。)を閣議決定し、同月15日、国会に提出した。
     本法案は、それまでの政府の憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認した昨年7月1日の閣議決定を具体化するとともに、本年4月27日に日米両政府により合意された「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」を国内法制化するものである。
  2.  しかし、本法案は、看過できない多くの問題点を抱えており、以下に指摘する点は特に重大である。
     第1に、本法案は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」(存立危機事態)に、自衛隊が米軍その他の外国軍隊と共に武力を行使することを可能としている。しかし、存立危機事態という概念自体が不明確であって、時の政府の判断次第で自衛隊の海外派遣が行われることになりかねない上に、そもそも憲法9条は個別的自衛権の範囲を超えた武力行使を禁じているのであり、我が国が直接攻撃されていないにもかかわらず武力を行使することは、この憲法9条に違反する。
     第2に、「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」(重要影響事態)が生じたときは、我が国周辺の地域のみならず、世界中のどこでも、「現に戦闘行為を行っている現場ではない場所」においてなら、自衛隊が米軍その他の外国軍隊に対して後方支援として弾薬の提供や兵員の輸送、戦闘機等への給油・整備等を行うことを可能としている。しかし、この重要影響事態という概念もまた不明確であるという問題がある上に、そもそも弾薬の提供、戦闘機等への給油等の後方支援なくして戦闘行為を継続することは不可能又は困難であるから、自衛隊の後方支援と他国軍隊が行う武力行使との一体化は避けられず、憲法9条が禁止する海外における武力行使に道を開くものとして、同条に違反する。
     第3に、「国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの」(国際平和共同対処事態)が生じたときに、自衛隊が戦争を遂行する他国の軍隊に対して弾薬の提供や兵員の輸送、戦闘機等への給油・整備等の後方支援活動を行うことを可能としている。しかし、我が国の平和と安全への影響すら要件としないで自衛隊の海外派遣が可能になるという問題がある上に、自衛隊の後方支援と他国軍隊が行う武力行使との一体化は避けられず、憲法9条が禁止する海外での武力行使に道を開くものとして、同条に違反する。
     第4に、国連平和維持活動(PKO)の他に、国連が統括しない有志連合等による「国際連携平和安全活動」にも自衛隊の参加を認め、活動内容としても従来その危険性の故に禁止されてきた「安全確保業務」や「駆け付け警護」を行うこと、及びそれに伴う任務遂行のための武器使用を認めている。しかし、国際的な「平和維持活動」、「平和協力活動」とされるあらゆる活動に自衛隊が参加できるようになり、我が国が他国の紛争に巻き込まれる危険が大きい。加えて、任務遂行のための武器使用は、武装勢力等との交戦状態、武力紛争へと発展していく可能性が大きく、武力の行使を帰結することとなり、「武力の行使」を禁じ、「交戦権」を否認した憲法9条に反する。
       この他、在外邦人救出等の活動が新たに自衛隊の任務として認められたこと、武力攻撃に至らない侵害への対処として、新たに他国軍隊の武器等の防護を自衛官の権限として認めていることなども戦闘行為に発展する可能性を孕み、武力行使に繋がりかねない懸念がある。
  3.  以上、本法案は、憲法前文と9条が謳う恒久平和主義にもとり、同条が規定する「戦争の放棄」、「武力の不行使」に違反するものであって、違憲無効の法案である。先の戦争に対する真摯な反省とそこから得られた痛切な教訓に立脚して制定された憲法前文と9条に照らし、許容することはできない。
     なお、また、本法案の内容は憲法改正手続を経ることなく実質的に憲法9条を改変するものであって、立憲主義の基本理念に真っ向から違背し、国民主権の原理にも反する。この点からも許容できない法案である。
  4.  当会は、昨年5月27日に、「憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を容認することは、戦後我が国が営々と築いてきた平和主義を崩壊させ、また立憲主義をも根底から破壊するものである」として、政府の憲法解釈の変更により集団的自衛権行使を容認することに強く反対する旨の会長声明を発している。
     本法案がもし成立すれば、集団的自衛権の行使が具体的・現実的なものとなり、政府の判断で再び我が国が戦争への道をたどることになりかねない。戦争こそ最大の人権侵害である。
     よって、当会は、基本的人権の擁護を使命とする法律家団体として、集団的自衛権行使の容認に重ねて反対するとともに、本法案の成立に強く反対するものである。
  5.  

    2015(平成27)年5月28日

    富山県弁護士会  会 長   水 谷 敏 彦