決議文・意見書・会長声明

憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明

2014.05.27

1 安倍晋三首相は、構成員全員を自ら選んだ私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の報告書に基づき、集団的自衛権の行使を認める方向で検討を進めることを明らかにした。

2 集団的自衛権とは、一般に、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する国際法上の権利と定義され、これまで日本国政府は、「憲法9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない」との見解を維持してきた。
 もとより、平和主義を定めた日本国憲法の下でも、国民の生命・財産が外国から侵害を受けた場合、その国民の生命・財産を守るために自衛権を行使する個別的自衛権の行使は認められるが、この自衛権の行使に際しては、①自国に対する急迫不正の侵害があること、②これを排除するために他の適当な手段がないこと、③必要最小限度の実力行使にとどめること、という3要件を満たす必要があるとされている。ところが、集団的自衛権は、このうちの①の要件、すなわち自国に対する急迫不正の侵害がないにもかかわらず、その行使を認めるものであって、従来の日本国政府の憲法9条解釈に反するものである。
 安倍首相は、必要最小限度の実力の行使であるから集団的自衛権の行使も認められるとの立論を展開しているが、これは、質的概念(我が国に対する攻撃であるか否か)を量的概念(必要最小限度であるか否か)に意図的にすり替えるものであって、その立論は到底認められない。

3 日本国民は、広島・長崎への原子爆弾投下を始め、主要都市への空爆等により多数の無辜の民を虐殺され、またアジアの国々の人々に多大の苦痛と損害を与えたという第二次世界大戦の惨禍を踏まえ、憲法前文・憲法9条を定め、恒久平和を誓った。そして戦後70年近くにわたり、戦争で人を殺すことも殺されることもなかった。
 こうした日本国と日本国民の行動は、世界の中で高い国際的評価と信用を得ており、アフガニスタンで医療活動や灌漑水利事業など人道支援を行っている「ペシャワール会」代表の中村哲氏は、「日本は軍事協力に消極的だった結果として、世界に敵をつくってこなかった。これは、日本のブランド力、歴史的遺産とも言うべき」だと語る。
 いま集団的自衛権の行使を容認することは、この憲法前文・憲法9条を空文化させ、我が国の恒久平和の誓いを捨て去るに等しい。

4 集団的自衛権の行使を容認すれば、たとえばかつてのイラク戦争に集団的自衛権の行使として参戦した英軍に170名の死者が出たように、海外に派兵された自衛隊員が戦闘で多数死亡する事態が十分予想される。日本国民がそうした事態をはたして受け入れることができるのか、その意思が問われなければならない。
安倍首相が集団的自衛権の行使を認めるべきであるというのであれば、法治国家として当然の適正な手続を踏むべきであり、憲法96条の規定に従い、憲法改正の発議を行って国民にその意思を問うべきである。こうした憲法改正の手続を経ることなく、解釈によって改憲を行おうとすることは憲法規定の潜脱であり、もはや法治国家とはいえない。
 そもそも憲法は国家権力が国民の権利・自由を侵さぬよう権力に縛りをかけるものであって、かかる憲法の規定を、国家権力そのものである政府の解釈によって変更することはあからさまな立憲主義の否定であり、到底許容されない。

5 以上、憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を容認することは、戦後我が国が営々と築いてきた平和主義を崩壊させ、また立憲主義をも根底から破壊するものである。

よって当会は、これに強く反対する。

2014(平成26)年5月27日

富山県弁護士会  会 長   島 谷 武 志