決議文・意見書・会長声明

司法試験合格者数のさらなる減員を求める17弁護士会会長共同声明

2016.12.27

  1.  日本弁護士連合会は,本年3月の臨時総会決議(以下,「日弁連臨時総会決議」という。)において,現行の法曹養成制度の下で,法曹志望者が毎年大幅な減少を続けており,こうした状況が続くなら我が国の司法と民主主義を担う人的基盤を脅かす危険があるとし,平成27年度司法試験合格者数が1850人であった状況の中で,「まず,司法試験合格者数を早期に年間1500人とすること」を,可及的速やかに実現すべき緊急の課題として,全国の会員・弁護士会と力を合わせて取り組むことを表明した。
  2.  制度発足後,現実の法的需要を大幅に超える2000人前後の合格者(法曹有資格者)が毎年供給される反面,裁判所の新受件数に現れているとおり,法曹に対する従来型の需要は増加するどころか近年減少を続け,新しい活動領域の拡充も,供給の増加を吸収する規模には至らなかったため,有資格者の過剰供給の弊害は年々顕在化してきた。
     司法試験を合格し,司法修習を終了しても,法曹として就職・就業できない者が12月の一括登録時で400人を超え,その1ヶ月後でも200人を超えているという異常事態が,平成23年12月(一括登録時464人,1ヶ月後326人)から昨年(一括登録時468人,1ヶ月後225人)まで続いてきた。また,新人法曹が抱える貸与型奨学金や修習中の貸与資金は,利用者平均で350万円にのぼることも判明している。
     こうした中で,法曹の魅力,司法試験の魅力は,年々確実かつ急速に失われてきた。その結果として,法科大学院適性試験の受験者数は,試験が開始された平成15年には5万4千人であったものが,昨年3621人,本年3286人にまで激減し,司法試験受験者も,平成16年には4万3千人であったものが,昨年は8016人となり,さらに本年は6899人にまで激減するに至っている。現状は,法曹志望者の減少傾向に歯止めが利かなくなっている状態にあり,政府の法曹養成制度検討会議が平成25年6月26日取りまとめで指摘した,「多様で有為な人材を法曹に確保することが困難となる危機」は,現実化するに至っている。
     多様で有為な人材が法曹を志望せず,試験の選抜機能が働かず,就職環境や法曹に就いた後のOJTの環境も厳しいとなれば,新規法曹の質が低下することも必定である。
     日弁連臨時総会決議が,昨年の1850人の現状に対し,まず1500人へと合格者数を減員することを緊急課題としたのも,現行の法曹養成制度がこのような深刻な危機の状態にあるとの認識を反映したものである。
  3.  法務省は,本年9月に,本年度の司法試験合格者数は1583人であると発表した。数字だけを見ると,日弁連総会決議が緊急課題とした1500人への減員に結果として近づいたともいえる。しかし,昨年度も本年度も受験者数に対する合格者数の割合(合格率)は同一の23%であるから,本年度の合格者の減少は,昨年度と比べ法曹志望者が大幅に減少した結果もたらされたという見方をする意見もあり,政策的な減員がなされたか否か明らかでない状況にある。
     日弁連臨時総会決議は,「更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要,問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきもの」としているところ,現行の法曹養成制度は,法曹志望者の激減に合わせて,法科大学院適性試験や司法試験の受験者が上記の通り著しく激減した結果,制度の成熟の前提となる多様で有為な人材の確保そのものが危機に瀕する実態にある。また,現実の法的需要が,平成15年以降,倍近くに増えた法曹有資格者の過剰供給を吸収できる状態から程遠い実態にあり,そのことの弊害がますます顕在化していることも,すでに明瞭である。
     この間に,法曹有資格者が,既に何年にもわたり,登録年度ごとに供給過多が発生し,そのもとで法曹界に様々な困難が積み重なっていることを考慮すれば,政府が,次年度以降に向け,さらに大幅な減員を行う方針を速やかに採用しなければ,供給過剰による弊害の進行を食い止めることはできず,社会に法曹界の魅力ある将来像を提示することは困難となり,結果として人材の法曹離れの傾向を止めることもおぼつかず,さらに法曹養成制度の危機を深めるという悪循環が繰り返されることになる。
  4.  法曹は司法を担う人的基盤であって,司法制度は法の支配と人権擁護の基盤となる国家制度である。いま,供給過剰による弊害の進行を食い止め,法曹を目指すことの魅力を保持することは,司法制度存立の基礎を維持するために不可欠な事柄である。
     そこで,われわれは,共同で,政府に対し,次年度以降の司法試験合格者数を,さらに大幅に減員する方針を,速やかに採用することを強く求めるものである。
  5. 以 上

    2016年(平成28年)12月27日

    埼玉弁護士会  会 長  福 地 輝 久

    千葉県弁護士会 会 長  山 村 清 治

    栃木県弁護士会 会 長  室 井 淳 男

    群馬弁護士会  会 長  小此木   清

    山梨県弁護士会 会 長  松 本 成 輔

    長野県弁護士会 会 長  柳 澤 修 嗣

    兵庫県弁護士会 会 長  米 田 耕 士

    三重弁護士会  会 長  内 田 典 夫

    富山県弁護士会 会 長  山 本 一 三

    山口県弁護士会 会 長  中 村 友次郎

    大分県弁護士会 会 長  須 賀 陽 二

    仙台弁護士会  会 長  小野寺 友 宏

    福島県弁護士会 会 長  新 開 文 雄

    山形県弁護士会 会 長  山 川   孝

    秋田弁護士会  会 長  外 山 奈央子

    青森県弁護士会 会 長  竹 本 真 紀

    札幌弁護士会  会 長  愛 須 一 史